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Appendix2 エネルギー
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一般相対性理論のアインシュタイン重力方程式の右辺に当たるエネルギー運動量テンソルについて,特殊相対性理論から説明します。
4 元ベクトルで表される座標系 Σ に対して座標系 Σ'が速度 v ( < 光速度 c ) で第3座標成分 (z) 方向へ等速直線運動しているとします。このとき座標系 Σ の物理量の座標成分 (x0,x1,x2,x3) を座標系 X'で観測したときのそれが (x'0, x'1, x'2, x'3) となるような座標変換をローレンツ変換といいます。
x'0=γ (x0 − βx3)
x'1 = x1
x'2 = x2
x'3 =γ (x3 − βx0)
ここで,γ2=1/(1−β2), v/c=β と表記しています。特に座標系 Σにおいて,運動をしている質点の時刻 (c をかけて長さの次元とする) と位置,
x0=ct, x1=x, x2=y, x3=z
を成分とする4元ベクトルを考えます。その微分(余接空間の基底)もローレンツ変換に従い,
cdt'=γ (cdt − βdz) dx' = dx dy' = dy dz' =γ (dz − βcdt) |
||||
(2.390)
ただし,
γ =
1
1−β2 > 1, β =
v c
となります。このとき,
-(ds)2≡ (cdt)2−(dx)2−(dy)2−(dz)2 = (cdt')2−(dx')2−(dy')2−(dz')2 ≡-(ds')2
(2.391)
を満たしていることは直接計算して確かめられます。つまり上記の量 はローレンツ変換に対して不変量となっています。この量が座標によらない不変量である理由は,4 次元ベクトル空間が計量として次のミンコフスキー計量が導入されたミンコフスキー空間と考えれば,この量がベクトルの大きさの2 乗にマイナス符号を付けたもの (スカラー) となっているからです。つまり,ミンコフスキー計量を
ηij=ηij= -1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1 0 0 0 0 1
とすると,
x0=-ct, x1=x, x2=y, x3=z ←指標が下がっていることに注意
ベクトルの大きさの2 乗(ds)2は,
(ds)2≡dxidxi =dx0dx0+dx1dx1+dx2dx2+dx3dx3
=−(cdt)2+(dx)2+(dy)2+(dz)2 (2.393)
と計算されますが,これはローレンツ変換に対しての不変量の符号を反対にしたものです。
そこで,固有時と呼ばれるτ を用いて,
(cdτ)2 ≡ (cdt)2−(dx)2−(dy)2−(dz)2 (=-(ds)2) ・・・・・・[*]
(2.394)
とおくことにします。
このτが固有時と呼ばれる理由は,座標系Σを静止座標系,等速運動する粒子に固定された運動座標系をΣ’とすれば,
Σ’において粒子は静止しているので,
dx'=dy'=dz'=0
であるから,(2.391)と(2.394)より,
(cdτ)2= (cdt')2 ⇒ dτ=dt'
すなわち,dτはそれぞれの運動粒子の固定された時計の刻み,つまり,τは運動粒子固有の時間を示しているからです。
さて, [*]をc2 で割ると,
dτ2 =dt2 1− dx 2 + dy 2 + dz 2 cdt cdt cdt
さらに平方根をとって,プラス符号を選択すれば,
dτ= dt γ ただし,
γ= 1
1−(v/c)2 , v2= dx 2 + dy 2 + dz 2 dt dt dt
という関係式が得られます。γは v << c のときは 1,光速度 c に近づくにつれて +∞ となります。
(つまり,運動粒子の時計はその速度が速いほど,静止系Σに比べてより遅く進み,光速になると止まってしまうということです。)
さらに,特殊相対性理論で用いられる用語の説明を続けると,長さの単位をもつ,4元位置ベクトル (ct,x,y,z) をτで微分したベクトルを4元速度と定義します。
u≡ dxi = cdt , dx , dy , dz = γc,γ dx ,γ dy ,γ dz dτ dτ dτ dτ dτ dt dt dt
すなわち,
u =(u0,u1,u2,u3)=(γc,γvx,γvy,γvz) [4元速度]
=γ(c,vx,vy,vz)
ただし,
vx= dx ,vy= dy ,vz= dz dt dt dt
を定義します。さらに物体の(静止)質量mをこれに乗じた4元運動量 pi≡mui ,すなわち,
p =(p0,p1,p2,p3)=m (u0,u1,u2,u3) [4元運動量]
=(γmc,γmvx,γmvy,γmvz)
=γ(mc,px,py,pz)
を定義します。ここで,(px,py,pz)≡(mvx,mvy,mvz) はニュートン力学における運動量成分です。
さらに,4 元運動量の第2成分以下の p1,p2,p3 は速度が光速より十分小さいときは,γ = 1 と近似して,
p= (p1,p2,p3) ⇒ (px,py,pz) = (mvx,mvy,mvz)
= mv ≡p古
とニュートン力学における運動量と一致することが分かります。
一方,4 元運動量の第1 成分は,それに光速度 c を乗じたcp0 =γmc2 を物体の(相対論的) エネルギー E と定義します。
E ≡ cp0 = γmc2 =γ2ρc2 (質量密度ρ≡m/γ)
(2.401)
この量は,光速度より十分小さな速度で運動するときには,古典力学の運動エネルギーに対応することを示すことができます。
そのためには,ローレンツ不変量,[*]式に(mγ)2を乗じて,(dt)2で割ると,
(mγ)2(cdτ/dt)2=(mγ)2c2−(mγ)2(dx/dt)2−(mγ)2(dy/dt)2−(mγ)2(dz/dt)2
↑ ↓ γdτ=dt より
(mc)2 = (γmc)2−(γmvx)2−(γmvy)2−(γmvz)2 ・・ (1)
と変形します。すると,この結果を4元運動量 pi を用いて表せば,
(mc)2 = (p0)2−(p1)2−(p2)2−(p3)2
= (p0)2−p2 [**]
さらに,[**]式の両辺に c2 をかけると,E と mc2 の関係式を得ます。
(mc2)2=E2−(pc)2 [***]
そして,速度vが光速度cに比べて十分小さいとして,
E =
(mc2)2+(pc)2
=mc2
1+ (cp)2 (mc2)2
≒mc2 1+ (cmv)2 2 (mc)2
=mc2+ mv2 =mc2+ px2+py2+pz2 2 2m
となります。 ここで,第2項, mv2/2 はニュートン力学における運動エネルギー E古 です。
一方,第1項 mc2 は,第2項がゼロ,すなわち,座標系Σにおいて物体が静止しているときに持つエネルギーと考えることができるので,静止エネルギーと呼ばれます。つまり,相対論的なエネルギーとは,静止エネルギーと運動エネルギーの和であるということです。
次に力ですが,p=(p0,p1,p2,p3)=m (u0,u1,u2,u3) と
ニュートン力学の運動量と力の関係,
F古≡ dp古 ・・・・・ (2) dt
を念頭において,時間 t をτ,運動量を4元運動量 p=(p0,p1,p2,p3)=m (u0,u1,u2,u3) とすることで,4元力 f =( f0,f1,f2,f3 ) を次のように定義します。
f ≡ dp =m dp0 , dp1 , dp2 , dp3 [4元力] dτ dτ dτ dτ dτ
これもローレンツ不変量です。(2.407)
当然ながら,v << c で,γ=1とみなせるときは,第2〜第4成分は古典力学の関係式 (2) に帰着されることは容易に確かめられます。
4元運動量をもう一度書いておくと,
p =( E/c,p ) [4元運動量]
ただし,
E =γmc
p =(γmvx,γmvy,γmvz)
質量m の代わりに,(ローレンツ短縮考えて) 質量密度γρ を使って表記することにすれば,
E =γmc2 ⇒ ε =ργ2c2 =ρ(γc)(γc)
= ρu0u0
pi =γmvx ⇒ πi =ργ2vi =ρ(γc)(γvi)/c = ρ(u0/c )ui
= ρu0 ui / c
と表記できます。ε はエネルギー密度,πi は運動量密度(π1, π2, π3) = (πx, πy, πz) の i 成分,および,vi は速度 v = (v 1, v 2, v 3) = (vx, vy, vz) の第 i 番目の成分です。また, とします。これらを考慮して次のテンソルを定義します。
エネルギー運動量テンソル
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(2.410)
すると,第1 行目から,
エネルギー保存則
∂T00 + ∂T01 + ∂T02 + ∂T03 =0 ⇔ ∂T0i ≡∂kT0k =0 c∂t ∂x ∂y ∂z ∂xi
を考えてみます。
T00 =ρ(γc)(γc) =ρ(γc)(γc) =ε
T01 =ρ(γc)(γv1)=ρ(γc)(γc)v1/c=εv1/c
T01 =ρu0u2 =ρ(γc)(γc)v2/c=εv2/c
T01 =ρu0u3 =ρ(γc)(γc)v3/c=εv3/c
を用いると,
− ∂ε = ∂(εvx) + ∂(εvy) + ∂(εvz) ∂t ∂x ∂y ∂z
(2.416)
これはエネルギーの保存を表す連続の式です。( ε を質量密度ρ に置き換えると,
流体力学における質量保存を表す連続の式となってますね。)
運動量保存則
次にテンソルの第2行目について次の量を考えてみましょう。
∂T1k =0 ⇔ ∂kT1k=0 [x成分] ・・・ [x] ∂xk
∂T10 | + | ∂T11 | + | ∂T12 | + | ∂T13 | =0 ⇔ | ∂T1k | ≡∂kT1k =0 | |||||
c∂t | ∂x | ∂y | ∂z | ∂xk |
ここで,
T10 =ρu1u0=ρ(γc)(γvx) =πxc
T11 =ρu1u1=ρ(γc)(γvx)vx/c =πxvx
T12 =ρu1u2=ρ(γc)(γvx)vy/c =πxvy
T13 =ρu1u3=ρ(γc)(γvx)vz/c =πxvz
であることから,[x]式は,相対論的な運動量πのx成分に対する連続の式,
− ∂πx = ∂(πxvx) + ∂(πxvy) + ∂(πxvz) ∂t ∂x ∂y ∂z
を表していることが分かります。
第3 行目,4 行目が運動量のy 成分,z 成分それぞれの保存則に対応していることも同様に示せます。
結局,これら2 つの保存則をまとめて一つの式で,
エネルギー運動量保存の連続の方程式
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と表すことができます。これで,エネルギー運動量テンソルの発散は,相対論的なエネルギーおよび,運動量の保存則を表す連続の式であることが分かりました。
表にまとめておきます。
図
表記上の注意
pmn= ∂xm , qmn= ∂x'm ∂x'n ∂xn
x'k ⇒ yk ,および,ej= | ![]() |
∂ | ![]() |
, | e'k= | ![]() |
∂ | ![]() |
と書いて, | ||
∂xj | ∂yk |
ej= ∂x'k e'k ⇔ ∂ = ∂yk ∂ ∂xj ∂xj ∂xj ∂yk
座標変換の式とベクトルの成分とで変数の記号を区別すれば,
x'j= | ∂x'j | xk | ⇔ | ηj= | ∂yj | ξk | ||
∂xk | ∂xk |
と書くこともある。
ξ'j= | ∂xk | ξk |
∂x'j |