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1 ラグランジアンとハミルトニアン |
f-denshi.com [目次] 最終更新日: 03/03/15 | |
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[1] 最小作用の原理とは「力学法則が満たすべき基本法則」です。力学法則とは,「物理現象の前後で変化しない運動量,エネルギーのような量”=保存量” が満足する方程式」と言うことができると思いますが,その方程式はなんでもありというわけでなくて,数学的に非常に厳しい制限の付いた微分方程式だということがわかっています。それは適当な汎関数の極値(最小値)を与える必要条件になっているのです。汎関数とは関数の関数のことで厳密な定義は次章[#]で行ないます。
[2] とりあえず,解析力学に登場するもっとも重要な物理量,ラグランジアンおよび,ハミルトニアンついてその際立った特徴を紹介しておきましょう。この2つは,エネルギーが運動エネルギー(T)とポテンシャルエネルギー(U)とからなる簡単な系については,次のように定義されます,
T ラグランジアン(L) : L=T−U
U ハミルトニアン(H) : H=T+U
[解析力学は,この2つの量を中心にニュートン力学を再編・体系化したもので,量子力学の原理を見通しよく理解する上で決定的な役割を果たします。解析力学をラグランジュ形式と呼ぶことがあるのはこのラグランジアンに基づいて力学法則を記述する体系だからです。]
ここで,全エネルギーに相当するハミルトニアンは直感的になじみやすいのですが,”物理法則の法則”という意味では,ラグランジアンの方がより本質な物理量で,ハミルトニアン(ハミルトン形式)はむしろそれを数学的に変数変換した従属的な存在です。
[3] ラグランジアンはニュートンの運動方程式と等価であるオイラー・ラグランジュ方程式 [ EL方程式 ] と呼ばれる微分方程式を満たします。 EL方程式を直交座標系(XYZ)で表すと, (ここでは天下り的に示しますが,3.で”導出”します。)
オイラー・ラグランジュの方程式(XYZ直交座標)
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となります。これが,ニュートン方程式に等しいことは,例えば,重力場における質量mの物体の運動方程式(x成分)を考えると,ラグランジアンは, (M:地球の質量,G0:重力定数として,)
L=T−U=(1/2)・mv2−(−G0mM/x)=(1/2)・m(x’)2+G0mM/x
なので,これをE-L方程式に代入して,
∂L − d ∂L =0 ⇒ −G0mM/x2+ d mx’ =0 ∂x dt ∂x’ dt
となりますが,これはさらに計算すると,
G0mM/x2=mx”=m d2x dt2
つまり,これはニュートンの運動方程式: F (=G0mM/x2)[力]=m×a[質量×加速度] に他なりません。
[1] ラグランジアンを用いる効用のひとつは,EL方程式が座標変換に対して形を変えないことです。実際,これを極座標(rθφ)に座標変換すると, (大変な計算のあとで,)
オイラー・ラグランジュの方程式(rθφ極座標)
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が得られます。このようにEL方程式は座標系,成分によらず全く同じ形の式が3つ並んでいる(3次元空間の場合)だけなので,一般化した変数 q を用いて, (慣用的にq という文字を使います。)
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をひとつの変数だけで考えれば十分だということがわかります。それで,このq を一般化座標といいます。
[2] この結果はこの座標変換にかなり煩雑な公式,
x=r sinθcosφ
y=r sinθsinφ
z=r cosθ
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などを用いることを思えば驚きですが,変分学を学ぶと自明なことになります。このE-L方程式は汎関数が極値をとるときの数学的必要条件であって,それはどんな独立変数をとるかによらないからです。詳細はEL方程式の導出で説明します[#]。ここで,驚くべきことはむしろ,無数に存在する(微分)方程式の中で汎関数の一般的な(微分方程式で与えられる)極値条件をみたすように物理法則(=L に関する微分方程式 )が存在していることです。これを物理では最小作用の原理といいます(次章)。
↑ 人間を中心におけば,物理法則が汎関数の極値条件になるような”物理量 (汎関数)L を見つけ出すことに成功した”という方が正確なのでしょうか?