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ヤング図形を用いた
角運動量の合成 |
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f-denshi.com 更新日:07/07/05 |
[1] ヤング図形による角運動量合成の形式論の紹介です。この方法の正当性は次の定理に基づきます。
定理
次の3つの個数はひとしい。
1.分割の個数
2.対称群Snの位数(個数)
3.対称群Snの共役類の個数
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証明は、ここでは後回しにして、具体的な使い方だけを紹介します。
ヤングの図形
1.箱の並べ方
下にゆくほど正方形の数が同じか減小するように並べる。
横一列に並んだ図形の状態 : 対称 (完全対称)
縦一列に並んだ図形の状態 : 反対称 (完全反対称)
これら以外の並びの状態 : 混合対称
と呼ぶことにする。
2.符号の振り方
横方向 : 符合が同じか減少するように記入する。
縦方向 : 符号がかならず減少するように記入する。
( 上の文章中の減少を、増加と読み替えてもOKだが、ここでは「減少」を採用する。
)
物理的な意味への対応付け方の例:
符 号 = 量子状態の数(スピンならば2種類 (+<−)、p軌道ならば3種類 (+<0<−) などなど。
図の数 = 電子などの同一粒子の数。
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3.具体例
[A] 2符号−2箱のヤング図形 (2つのスピンの合成)
対 称 |
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3 ⇒ 3重項に対応 |
反対称 |
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1 ⇒ 1重項に対応 |
[B] 3符合−2箱 (p-軌道にある2つの電子の軌道角運動量の合成)
以上のヤング図形を準備すると以下の考察ができる。
[ケース1] (np)1(n'p)1
上のヤング図形[B]より軌道角運動量は 6(対称)+3(反対象)=9 とおり のそれぞれに対して、スピン1+3=4
とおり の組み合わせがある。つまり、全波動関数Ψ=φmχ としては、
9×4=36 とおり
がある。さらに詳しく見ると、対称軌道角運動量波動関数の数は、
6 = 5+1 ( L = 2,1,0,-1,-2 の5つ ⇒ D状態 と,L=0 の1つ ⇒ S状態 )
を含んでいる組み合わせしかありえず、反対称軌道角運動量波動関数は、
3 (L = 1,0,-1 の3つ ⇒ P状態 )
に対応している。結局、これらにスピン3重項状態、1重項状態がそれぞれ対応するので、分光学分野での記号を用いれば,
3D、1D、3P、1P、3S、1S
の6種類の合成角運動量状態が存在する。
[ケース2] (np)2
今度は、同じ軌道関数に電子が入っているので、スピン関数も含めた全波動関数が反対称になるように軌道角関数とスピン関数が組み合わされなければならない。それは
6(対称軌道D&S)×1(反対称スピン) = 6通り
3(反対称軌道P)×3(対称スピン) = 9通り
合計 =15通り
と計算できます。 6つの対称軌道関数に関して、先ほどと同じDとS状態とを含むことを考慮して、
1D、1S、3P
の3つの状態を含む,ということになります。
さらに3電子が同一のp軌道に収納されている場合を扱うために、次のヤング図形を利用します。
[C] 2符合−3箱 ( 3つのスピンの合成 )
対称 |
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4 ⇒ 4重項 |
混合 |
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2 ⇒ 2重項 |
反対称 |
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なし |
なし |
ここで、反対称な |
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という並びはありえない。? に入るべき符号がないので。 |
[D] 3符合−3箱 ( 3つの軌道角運動量の合成 )
ここで、 |
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という対称軌道関数を示す並びは、対応する反対称スピン状態がないので考えても仕方がない。 |
[ケース3] (np)3
反対称な軌道関数(S状態)に対しては、対称な4つのスピン関数が対応する。これは、
4S (4つ)
一方,8つの混合対称な軌道関数には2つの混合対称なスピン関数が対応して、8×2=16
とおりある。さらに詳しく、調べるためには混合状態数を分割する必要があるが、全角運動量が
最大が,2(軌道)+1/2(スピン)=5/2(6重縮退:5/2,3/2,・・・,-5/2)、
最小が1/2(2重縮退:1/2,-1/2)である
ことを考慮する(最大3、最小1を含むような分割)と次のような分割しか許されない、
3+2+2+1
の1通りがある。これらは、
2D5/2 (3×2) |
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2D3/2(2×2) |
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2P3/2(2×2) |
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2P1/2(1×2) |
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と対応させられる。ただし、
ヤング図形を下のように分解して見る必要がある。
= |
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3 × 3 × 3 = |
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10
(7+3) |
+ |
8
(5+3) |
+ |
8
(5+3) |
+ |
1 |
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* |
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2D3/2、 |
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4S3/2 |
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3つのp-軌道: 3×3×3 = 27 個 の状態ができる場合
2J +1 = 状態数
反対
称 |
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3 |
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3 |
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1 |
対称 |
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6 |
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10 |
混合
対称 |
|
|
8 |
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計27個 |
(np)3
1.対称式とヤングの図式
[1] ヤングの図式と呼ばれる図形を用いた計算を対称式の計算へ応用する利用方法を紹介します。対称式については代数のところで正確な定義を述べていますが、次のような下添字の交換に対して、全体として不変な多項式:
記号1 |
n=2 |
n=3 |
n=・・ |
xj2 |
x12+x22
|
x12+x22+x32
|
・・・・・ |
xjxk |
x1x2 + x2x1 |
x1x2 + x1x3 + x2x1 + x2x3 + x3x1 + x3x2 |
・・・・・ |
・・・ |
・・・ |
・・・ |
・・・・・ |
xj3xk |
x13x2+x23x1 |
x13x2+x13x3+x23x1+x23x3+x33x1+x33x2 |
・・・・・ |
などを対称式と呼びます。詳しくは→[#]。言い換えると、左の記号1における x の下添字(j≠k)を順次、1からnまでいろいろ換えて得られる単項式のすべての和によってn文字からなる対称式が得られます。
[2] この記号1を次のように書き換え、それをヤングの図形といいます。
まず、n文字(x1、x2 、・・・xn)の対称式は、
ただし、
(1) a1>a2>・・・>ak は定まったk個の自然数、(k≦n)
(2) Σ(和)は、 x の下添字について、b1,・・、bk は1・・nまでのうちの異なるk個をとって並べた”順列”すべてにわたる。
と表せることが分かります。(2)は(1)が決まる(n、k が与えられる)と自動的に定まるので対称式は指数だけを並べて
(a1、a2、・・・、ak) ←暫定
と書いて完全に指定することが可能です。
(3)さらに同じ数字Nがk個並ぶときはNkのように書くことにします。これをヤング図形といいます
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[3] これも例を示す方がわかりやすいでしょう。
記号1 |
対称式の具体例 |
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ヤング図形 |
xj2(n=2) |
x12+x22 |
⇒ |
(2) |
xj2(n=3) |
x12+x22+x32 |
⇒ |
(2) |
xjxk(n=2) |
x1x2 + x2x1 |
⇒ |
(12)=(11) |
xj3xk(n=3) |
x13x2+x13x3+x23x1+x23x3+x33x1+x33x2 |
⇒ |
(31) |
特に
s1= x1+x2・・・+xn =(1)
s2=x1x2+・・・+xn-1xn=(12)
・・・・・・・・・・・・・
sn= x1x2・・・xn =(1n) |
と表せる対称式を基本対称式といいます。別の定義は→[#]。これら数字の並びをヤング図形と呼ぶのは実際の図形と一対一の対応を考えるからで、下のようになります。
(31)
(3211)≡(3212) ←つまり、 =(3列タイル1行だけ 2列タイル1行だけ 1列タイル2行)ということです。
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指数 |
変数の数
4 |
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⇔ |
x13x22x31x41=x13x22x3x4 というタイプの対称式 |
[4] このような図形の間にヤングの図式と呼ばれる規則に従った計算=”積” を定義されています。「習うより慣れろ」ということで、具体例を見ていきましょう。まず、図式の作り方(積の計算方法)です。
(T)n=4 のときの例です。
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* |
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* |
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* |
* |
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× |
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= |
+1 |
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+2 |
* |
* |
+3 |
* |
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* |
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* |
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A |
B |
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C |
|
D |
|
E |
(212) ×(1) |
= |
+1 |
(312) |
+2 |
(221) |
+3 |
(213) |
係数の意味 → |
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1C1 |
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2C1 |
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3C1 |
白タイルに黄タイルを右上にひっつけて、下に滑らせながら新たな項(ヤング図形)をつくっていくのですが、ルールとして、(1)右上からスタートして、(2)左の列に移動するときは一番下に留まるということにします。そうすると上のようにC、D、Eができます。図形の係数の意味はその図で、”黄タイルを含む行と”列数が等しい行”の個数です。つまり、[*]の付いた行数、これをNとします。そしてその中にふくまれる黄タイルの個数をM(←今の場合どの場合も1です)とすると、係数は
NCM
と定義されています。これを2つの図形の間の”演算”として、
A×B=C+2D+3E ⇔ (212)×(1)=(312)+2(221)+3(213)
のように書くわけです。もっと例を見たい方 → [#]
[5] 一方、各記号に対応する対称式については、普通の代数演算が可能なワケですが、左辺については、
(212)=x12(x2x3+x2x4+x3x4)+x22(x1x2+x1x3+x3x4)
+x32(x1x2+x1x4+x2x4)+x42(x1x2+x1x3+x2x3)
(1) =x1+x2+x3+x4
であり、この2つの多項式の積を計算(展開)しましょう。愚直に掛け合わせて行くと、
(212)×(1)= x13(x2x3+x2x4+x3x4)+x12(x2x3+x2x4+x3x4)(x2+x3+x4)
+x23(x1x3+x1x4+x3x4)+x22(x1x3+x1x4+x3x4)(x1+x3+x4)
+x33(x1x2+x1x4+x2x4)+x32(x1x2+x1x4+x2x4)(x1+x2+x4)
+x43(x1x2+x1x3+x2x3)+x42(x1x2+x1x3+x2x3)(x1+x2+x3)
=(312)
+x12{3x2x3x4+x2x3(x2+x3)+x2x4(x2+x4)+x3x4(x3+x4)}
+x22{3x1x3x4+x1x3(x1+x3)+x1x4(x1+x4)+x3x4(x3+x4)}
+x32{3x1x2x4+x1x2(x1+x2)+x1x4(x1+x4)+x2x4(x2+x4)}
+x42{3x1x2x3+x1x2(x1+x2)+x1x3(x1+x3)+x2x3(x2+x3)}
=(312)+3(213)
+x12[x22x3+x2x32+x22x4+x2x42+x32x4+x3x42]
+x22[x12x3+x1x32+x12x4+x1x42+x33x4+x3x42]
+x32[x12x2+x1x22+x12x4+x1x42+x22x4+x2x42]
+x42[x12x2+x1x22+x12x3+x1x32+x22x3+x2x32]
=(312)+3(213)+2(221)
ということで、先程の図形を使った”演算”と1対1の対応が付くわけです。
[積表現:(212)×(1)]=[展開した対称式の和の表現:(312)+3(213)+(221)]
丹念にこの計算過程(結果)とヤング図を比較すれば、その対応関係(係数がそうなる意味)を見出すことは難しくありません。
(U) もう一つ例をあげておきます。n=5 で今度は黄タイルが2つある場合です。このとき黄タイルの横並びは禁止です。他の規則は先程と同じとすると出現する並びは下のようになります。
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× |
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= |
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+3 |
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+1 |
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+4 |
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* |
+6 |
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* |
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* |
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(212) × (12) |
= |
(321) |
3(313) |
3(23) |
4(2212) |
|
6(214) |
係数の計算 |
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1C1・1C1 |
1C1・3C1 |
2C2 |
2C1・2C1 |
4C2 |
このヤング式の計算に対応する対称式の展開について説明します。
先ず一番右端の4C2についてです。重複して数えるのを防ぎぐために変数の添え字は左から右へ増加するような物を拾うこととします。
(212)×(12)= ・・・+E(214)
⇔
(x12x2x3+x12x2x4+・・・+x12x4x5+・・・+x52x3x4 )(x1x2+・・・+x2x3+x2x4+・・・+x4x5 )
を展開して現れる,x12x2x3x4x5 と同じものを抜き出すと,
x12x2x3・x4x5
x12x2x4・x3x5
x12x2x5・x3x4
x12x3x4・x2x5
x12x3x5・x2x4
x12x4x5・x2x3
|
⇔ |
|
の6項だと分かります。この一覧から,次数が1である変数 x2,x3,x4,x5 の個数4個の中から2個選び出す組み合わせ数 4C2=6 が係数を与えていることが分かります。
もう一つ,見ておきましょう
(x12x2x3+x12x2x4+x12x3x4+・・・+x52x3x4 )(x1x2+x1x3+x1x4+・・・+x4x5 )
を展開して現れる,x13x2x3x4 と同じものを抜き出すと,
x13x2x3・x4
x13x2x4・x3
x13x3x4・x2
|
⇔ |
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の3項だと分かります。この一覧から,次数が3である変数 x1は必ず選ばなければいけないので,1C1=1 の1とおりです。また,1次の変数x2,x3,x4個数3個の中から1個選び出す組み合わせ数 3C1=3 個が同じ項を与え,結局, 1C1・3C1がこのタイプの対称式の係数を与えることが分かります。
2.テンソル積の直積表現を直和表現に分解への利用
ヤング図形の計算
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× |
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= |
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+3 |
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+5 |
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黄タイルの留まる場所だけ「*」をつけておきました。
黄タイルが2個あるときも「黄タイルの横並びが禁止」なだけで他のルールは同じです。黄タイルは独立に動きます。これも例を見て下さい。
係数の値は、
C=2C2
D=1C1・2C1
E=1C1・5C1
F=4C2
G=3C1・4C1
H=6C1
を計算します。