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3 固有空間 | |
f-denshi.com [目次] 最終更新日: 07/11/15 | ||
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前ページで簡単に説明した固有値,固有関数について正確に定義することからはじめます。
[1]
定義 n 次元複素ベクトル空間 V 上の線形写像を表す正方行列 T に対して,固有方程式と呼ばれる, Tx =λx ⇔ (λE−T)x = 0 ・・・・・ [*] ( E: 単位行列 ) を満たすベクトル x ∈V を 固有ベクトル,λ∈C(複素数)を 固有値という。 |
この固有方程式がx=0 以外の解を持つ条件は行列 (λE−T) が逆行列をもたない条件と同じで[#],それは次の行列式:
ΦT(λ)≡|λE−T|
の値が 0 となることです。この行列式 ΦT(λ) は複素数を係数とするλに関するn次多項式で,固有多項式と呼ばれます。
[2] また,行列式が基底(座標系)のとり方によらない,
T’=P-1TP ⇒ |T’| = |P-1||T||P| = |T| ∵ |P-1|=1/|P|
であることから,
固有多項式は基底の取り方によらない: ΦT(λ)=ΦP-1TP(λ) |
こともただちにわかります。もちろん,固有多項式から計算される固有値も基底によりません。
固有値は基底の取り方によらない。 |
[3] なお,T が2次,3次正方行列の場合の固有多項式を紹介しておくと,
固有多項式: (1)2次正方行列 ΦT(λ)=λ2−trTλ+detT (2)3次正方行列 ΦT(λ)=λ3−trTλ2+(detT11+detT22+detT33)λ−detT ここで,trT はTのトレース,detT はTの行列式,detTkkはTの小行列式で, で与えられる。もちろん,trT, ![]() |
となります。
[4] 一般に,n次正方行列の固有多項式はn次多項式で,それを 0 に等しいとする n次代数方程式 ΦT(λ)=0 は,代数学の基本定理[#]より,C上に重複を含めてn個の解を必ずもつので,その解を μ1,μ2,・・・,μn とすれば,固有方程式は,
ΦT(λ)=(λ−μ1)(λ−μ2)・・・(λ−μn) = 0
と因数分解した形で表されます。
その中である固有値μk に着目し,そのμkを固有値にもつベクトルx の全体の集合 E (μk):
E(μk)={x|Tx = μkx } ( E(μk) を Ek とも略して書きます。)
を固有値μkの固有空間といいます。
E(μk)がC上のベクトル空間V の部分ベクトル空間[#]である
ことは次のように示せます。
x,y を任意のE(μk)に属するベクトルとすると,任意の c1,c2∈C にたいして,
T(c1x +c2y) =c1Tx +c2Ty=c1μkx +c2μky
=μk(c1x +c2y)
これは,
x,y ∈ E(μk) ⇒ c1x +c2y ∈ E(μk)
を示しています。
[5] また,異なる固有値の数 (=異なる固有空間の数) s は固有方程式の次数より小さく,s ≦ n を満たさなければなりません。 また,等号 s = n が成り立つのはすべての固有値が異なるときです。
[6] 一方,固有値に重複がある場合,同じ値の固有値(=重根)をまとめてあらわすと T の固有多項式は,
ΦT(λ)=(λ−λ1)d1(λ−λ2)d2・・・(λ−λm)dm ・・・・・ [**]
ただし, n = d1+d2+・・・+dm で,dk は固有値λk の重複度。
と因数分解できます。このとき次の関係が成り立ちます。
命題 固有値λkの固有空間の次元 dim E(λk) と固有値 λkの重複度dkとの関係は, dim E(λk) ≦ dkつまり,固有値λk の固有空間の次元は固有方程式における根 λk の重複度 dk を超えることはない。 |
この命題は4.ページの定理[#]の証明で使います。
証明
記号の混乱を防ぐために k=1 として説明します。まず,
dim E(λ1)=s1,
E(λ1)の基底を{u1,u2,・・・,us1}
とします[#]。さらに固有空間 E(λ1) がV の部分ベクトル空間である[#]ことから,n−s1 個の1次独立なベクトル ts1+1,ts1+2,・・・,tn を加えてV の基底,
{u1,u2,・・・,us1,ts1+1,ts1+2,・・・,tn }
をつくることもできます[#]。この基底のもとで T の表現行列T'は[#],
T' = ( T'(u1),T'(u2),・・・,T'(tn))
ですが,ここで,k=1,2,・・・,s1については,uk∈E(λ1) なので,T'uk=λ1ukであることに注意すると,
T'(u1)= λ1 ,・・・,T'(us1)= 0 ← s1行目 0 : : 0 0 λ1 : 0 0 : 0 0
なので,T'の左上 s1行s1列までは,「 λ1 が並んだ対角行列 A 」 で,その下の(n−s1)行s1列行列はO行列である,
T'=
A B O C
; A = λ1 ・・ O : : : O ・・ λ1
という形の「ブロック化した三角行列」となります。このような行列の固有多項式は,
ΦT'(λ)=|λEn−T'|
=|λEs1−A| |λEn-s1−C|
=(λ−λ1)s1|λEn-s1−C| ( Ek は k次の単位行列 )
と計算を進めることができます。ところが,固有多項式は基底によらない[#]ので,変換前の固有多項式[**],
ΦT(λ)=(λ−λ1)d1(λ−λ2)d2・・・(λ−λm)dm
と今,計算したΦT'(λ)は同じでなければなりません。そこで,両式の(λ−λ1)項の次数を比較すれば,s1は d1 に等しいか,小さくなければいけません。つまり,s1 ≦ d1 ということになります。ここまでの証明がk=1以外の場合も同様であることはいうまでもありません。 (終)
(蛇足:ここで,小さく といったのはもしかしたら,|λEn-s1−C|の中にも(λ−λ1)の項が潜んでいるかも!知れないからです。)
n次正方行列のトレースの性質
(1) tr(T)=tr(tT)
(2) tr(TS)=tr(ST) 成分で書けば,(
tjkskj)=
(
skjtjk)
(3) tr(T)=tr(P-1TP) (2)より,tr((P-1T)P)=tr(P(P-1T))=tr(T)
(4) tr(T)=λ1+・・・+λn (重複を含めた固有値の和)
線形性
tr(T+S) = tr(T)+tr(S)
tr(cT) =c tr(T)
以下,ゴミ
T'= | ![]() |
u1*T'u1 ・・・ u1*T'us1 | u1*T'ts1+1 ・・・ u1*T'tn | ![]() |
|
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||||
us1*T'u1 ・・・ us1*T'us1 | us1*T'ts1+1 ・・・ us1*T'tn | ||||
ts1+1*T'u1 ・・ ts1+1*T'us1 | ts+1*T'ts1+1 ・・ ts1+1*T'tn | ||||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ||||
tn*T'u1 ・・・ tn*T'us1 | tn*T'ts1+1 ・・・ tn*T'tn |
uj*T'uk = uj*λ1uk = λ1uj*uk =λ1δjk
tj*T'uk = tj*λ1uk = λ1tj*uk = 0