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Appendix 1 行列力学入門 1(ブラケット記法) |
f-denshi.com 更新日:05/02/8 | |
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[1] 自由粒子の(定常状態の)シュレーディンガー方程式は,
− h2・ ∂2 φ(x) = εφ(x) ・・・・・ [**] 2m ∂x2
ですが, H = − | ・ | ∂2 | とおいて,書き直せば, | |
2m | ∂x2 | |||
Hφ(x)=εφ(x) [ 微分方程式で表した固有方程式 ]
のようになります。ここで,φ(x)は波動関数,εはエネルギー固有値と呼ばれ,|φ(x)|2 はエネルギーεをもつ粒子を位置 x に見出す確率と解釈されるのでした[#]。 この微分方程式は数学的にみれば,固有方程式と呼ばれ,φ(x) を固有関数,ε を固有値と言います。
[2] この方程式は,線形代数における行列 A とベクトル x とで作られる固有方程式
Ax =λx
と同じ形式をしています。実際,これらの方程式は数学的に同一視することができ,
H [微分演算子] ⇔ A [正方行列]
φ(x) [関数] ⇔ x [ベクトル]
ε = λ
と対応させることができます。その結果,量子力学には,微分方程式を用いた表記方法と行列力学とも呼ばれる行列を用いた表記方法の2つが存在するのです。
[3] 関数とベクトルとが対応する状況は,関数のテーラー展開やフーリエ級数展開と同じです。例えば,指数関数のテーラー展開[#]は,
ex=1+ 1 ・x+ 1 ・x2+・・・+ 1 ・xn-1+ 1 ・xn+・・・ 1! 2! (n−1)! n!
ですが,ここで, { 1,x,x2,x3,・・・,xn,・・・ } をベクトル空間の基底 [#] のように考えると,その係数をベクトル成分のように,
1, 1 , 1 , 1 , ・・・ 1! 2! 3!
と記して,指数関数に対応するさせることが考えられます。そして,テーラー展開の一意性から,この対応は1対1です。したがって,シュレーディンガー方程式で波動関数で示される物理状態(=確率密度)は,行列力学においては ”ベクトル” で表現されることになります。
[1] まず,取り扱いの簡単な複素数上の(n次元)ベクトル空間に内積を導入した,(n次元)ユニタリ空間について述べていきましょう。この空間の元から元への,つまり,ベクトルからベクトルへの変換を扱う線形代数が,量子力学(=行列力学)を記述する舞台となります。 まず,この空間では断りのない限り,ベクトルは,正規直交基底[#]:
Σ ={e1,e2,・・・,en}
によって表されているものとしましょう。
[2] すると,任意のベクトルは,
x =x1e1+x2e2+・・・+xnen
と表せます。また,その係数を縦に並べた成分表示,つまり,列ベクトルを,
x = x1 ≡|x>, e1 = 1 ≡|e1>, ・・・・・ x2 0 : : xn 0
などと書いて,量子力学ではケットと呼びます。 したがって,
|x >= x1|e1>+x2|e2>+・・・+xn|en>
[3] 一方,任意の |x > に対して,その各成分の複素共役を横に並べた行ベクトル[x の随伴ベクトル]:
x*=( , ) ← x の転置複素共役 ともいいます x1 x2 ,・・・, xn
=(x*1,x*2,・・・,x*n) ≡ <x |
を考えることができますが,量子力学では < x| と書きブラといいます。例えば,
x = 1 ≡|x> ⇒ x*=(1,1-i ,2,3i ) ≡<x | 1+i 2 -3i
のように。 ここで,(x*)*=x なので,x* と x は1対1に対応している(双対対応)ことに注意してください。
注意: ベクトル x を n 行 1 列の行列とみなせば,x* を x の随伴行列[#]と見ることもできます。 量子力学のたいていの本(特にあたらしい本)では,随伴行列 A* の代わりに A† という記号を用いています。 ( † はダガーと呼びます。) したがって,本WEB講義でも量子力学の本論ではこのような記号を使います。
[5] n 次元ユニタリ空間V のベクトルx,y の内積は,
(x,y )=x1 +x2 +・・・+xn y1 y2 yn
で定義されます。これはブラとケットを使えば,
<y|x>=( , ,・・・, y1 y2 yn )
x1 x2 : xn
と表すこともできます。 つまり,内積とは ”ブラ” と ”ケット” から ”ブラケット” を完成させることなのです。なお,本来ならば,
<y||x>と書くべき処 <y | x>と1本 ”|” は省略します。
[6] この内積の値が 0 のとき,
<y|x>=0 ⇒ |x>と |y> は直交している
といいます。また,任意のベクトルx について,
<x|x> ≧ 0
が成り立ちますが,その平方根, (<x|x>)1/2 をノルムといいます。ケットをノルムで割って,
|x>/(<x|x>)1/2 ⇒ |x>
と改めることをケットの規格化といいます。量子力学では物理状態に対応するケットは常に規格化しておくことにします。したがって,任意のケットについて,
<x|x>=1
が常に成り立つことを忘れないでください。このような要請を課す理由は後で説明します[#]。
[7] この記法によれば,正規直交系:Σ = {e1,e2,・・・,en}の基底ベクトルの正規直交関係は
<ej|ek>=δjk
と書くことができます。このことに注意して,<ej| を |x > の左からかけると,
<ej|x >=x1<ej|e1>+・・・+xj<ej|ej>+・・・+xn<ej|en>
= xj<ej|ej>
= xj
したがって,x の成分表示は,
|x > = <e1|x> <e2|x> : <en|x>
と書くことが可能です。この表示ですと,どのような基底で表示されているか一目瞭然です。
[1] n次元ユニタリ空間のベクトル x をベクトル y へ対応させる線形写像 : y = A(x ) は適当な n次 正方行列 A を用いて表すことができ[#],y = Ax 。これを成分で書くと,
y = y1 = a11a12・・・a1n x1 y2 a21a22・・・a2n x2 : : ・・・・・ : : yn an1an2・・・ann xn
と表せます。特にx として基底ベクトル e1,e2,・・・,en を考えると,
A(e1)= a11a12・・・a1n 1 = a11 ,・・・, A(ek)= a1k ,・・・・ a21a22・・・a2n 0 a21 a2k : ・・・・・ : : : : an1an2・・・ann 0 an1 ank
などに注意すれば,この縦ベクトルたちを横に並べると A が得られます。すなわち,
A = [A(e1)A(e2)・・・A(en)] = a11a12・・・a1n a21a22・・・a2n : ・・・・・ : an1an2・・・ann
が成り立ちます。したがって,線形写像 A の基底 :{e1,e2,・・・,en} における行列表現は,各A(ek)を求めて,その縦ベクトル成分を横に並べてやることで得られます。量子力学では行列 A を線形演算子とか線形作用素といい,「x に A を作用させると y になる。」というように解釈します。
[1] n次元ユニタリ空間のベクトルに作用する線形演算子 A が与えられたとき,適当なスカラー λとケット|a> が存在して,
固有方程式: A|a> = λ|a>
と記述されるとき,λ を固有値,|a> を固有ケットといいます。また,固有値は固有多項式と呼ばれる次の行列式
固有多項式: Φ(λ) = |A−λI|
を 0 とおいて得られる複素 n次方程式の解として得られます。従って,一般に固有値の個数は重複も含めて n 個なので,対応する固有ケットを,
{|a1>,|a2>,・・・,|an>}
と書くことにします。 一般的にはこの中に重複するものが含まれていることもあり得りえますが,量子力学にでてくる線形演算に関しては次に述べるように固有ケットはすべて異なります。(固有値がすべて異なると主張しているのではないことに注意。)
[2] 量子力学にでてくる線形演算子は対応する行列 A とその随伴行列 A* [#] との間で,
A*A = AA*
の関係を満たす正規行列でなければなりません。さらに細かく分類すれば,正規行列には次の3つのタイプがあります。(詳細は後ほど[#])
行列要素 複素数 特徴 量子力学での役割 正規行列
A*A=AA*ユニタリ行列 A*=A-1 座標変換を表す演算子 エルミート行列 A*=A 実測可能な物理量に対応する演算子 歪エルミート行列 A*=-A −
これら正規行列の特徴として最初にあげておかなければいけないのが,正規行列は必ずn個の直交する固有ケットを見出せることです。したがって,その n 個の固有ケットを用いて n次元ユニタリ空間の任意のケットを表すことができます。つまり,ユニタリ空間の正規直交基底の一つとして,標準基底: {e1,e2,・・・,en } の代わりに,
正規直交基底
Σ’={|a1>,|a2>,・・・,|an>}
<aj|ak>=δjk
を用いることもできるのです。 つまり,任意のケット|ψ> は基底Σ’ で,
|ψ> = c1|a1>+c2|a2>+・・・+cn|an>
と展開することができます。このことは,
「固有空間によるユニタリ空間の直交分解が可能な必要十分条件は,A が正規行列となることである[#]。」
という定理で知られています。
[3] 正規行列の重要な性質をいくつか囲んでおきます。
正規行列 (1) (Ax ,Ay )=(A*x ,A*y )
U-1AU=D とできる。 |
以上。
[4] もし,線形演算子A に対して n個の固有ケットが存在し,これらを n次元ユニタリ空間の基底に用いたとしましょう。すると,Aは対角行列となります。その k 列目の成分は[#]は,
a1k =A(|ak>)=A|ak>=λk|ak>= 0 : : a2k λk : : ank 0
となるので,結局A の対角線上には固有値が n個並ぶ ( 他の要素は0 ) ことになります。つまり,
A = λ1 0・・・・・0 0 λ2・・・・・0 ・・・・・・・ 0 ・・・・ 0 λn
[5] 次に,正規行列であるエルミート行列,ユニタリー行列についてもう少し詳しく見ていきましょう。
まず,エルミート行列です。
エルミート演算子 H [H*=H]
(1) (Hx ,y )=(x ,Hy ) |
固有方程式:
H|hj>=εj|hj>
は定常状態のシュレーディンガー方程式そのものです。また,この固有方程式の固有ケット,固有値から
期待値: 物理状態(固有状態) |aj> のときの各物理量 A の期待値に対応します。
<hj|A|hj>=<A>j ⇒物理量 A の期待値
<hj|H|hj>=εj ⇒ 固有エネルギー
<hj|p|hj>=<p>j ⇒ 運動量の期待値 というようになります。
・・・・・・・・・・・・・・
[6] ユニタリ行列とは基底変換つまり,座標変換の行列で,次のような性質を持っています。
ユニタリ行列 U [U*=U-1]
(1) (Ux ,Uy )=(x ,y ) |
UU=U*U=E ⇔ us*ut=δst (成分では,upsupt=δst)
ここで,δst はクロネッカ−のδ ⇒ [#]
δst = 1 (s=t) 0 (s≠t)
直交基底変換:{|a1>,|a2>,・・・,|an> } ⇒ { |b1>,|b2>,・・・,|bn> } の演算子 Uは,
U = Σ|bk><ak|; U*=Σ|ak><bk|
実際に次のように計算できます。
U|ak> = {|b1><a1|+|b2><a2|+・・・+|bn><an|} |ak>
= |bk><ak|ak>
= |bk>
<bk| = <ak|U* についてもおなじ。 詳しくは Appendix2 の基底変換を参考にしてください。
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