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130 一般化角運動量 |
f-denshi.com 最終更新日: 17/07/24 | |
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3つの演算子,Jx,Jy,Jz の交換関係を与えるだけで,いったいどれだけのことが言えるのか? 驚くことにスピンを含むすべての角運動量状態の記述が可能となります。量子力学がどのような原理・数学的基礎を土台に持つのか垣間見ることができます。
[1] 古典力学と対応が付くように,軌道角運動量を位置と運動量演算子の外積 r×p によって定義することは量子力学においても可能です[#]。しかし,この場合,角運動量の一つであるスピン角運動量の存在理由がはっきりしません。スピンも含めた統一的な角運動量の解釈には角運動量演算子の基本的要請(公理)を次の交換関係を満たすエルミート演算子:Jk によって定義する方法が簡明です。
角運動量演算子の交換関係
角運動量と呼ばれるエルミート演算子 Jk を次の交換関係を満たすものとする。
[Ji,Jj]=i hεijkJk : i,j,k = x,y,z
具体的には,[Jz,Jx]=ihJy ,[Jx,Jy]=ihJz ,[Jy,Jz]=ihJx
この関係は回転演算子の性質から「導くこともできます[#]」が,ここでは,原理的な要請として話を進めます。
[2] さっそく,一般化角運動量を定義する次の交換関係だけから,どのような関係式が導かれるのか見ていきましょう。
[Jx,Jy] = ihJz ,[Jy,Jz] = ihJx ,[Jz,Jx] = ihJy [*]
古典力学の角運動量については一切を忘れて形式的に議論を進めます。
最初に,[*] を用いて,J2,J± を,
定義
( I ) J2 ≡ JxJx+JyJy+JzJz =Jx2+Jy2+Jz2
(II ) J+ ≡ Jx+iJy (上昇演算子)
(III) J- ≡ Jx−iJy (下降演算子)
と定義しておきましょう。 J+ とJ-は互いにエルミート共役の関係にあります。このとき,
[ J2,Jz ] = 0 が成り立つ
ことを証明します。まず,恒等式,
J2 = 1 ( J+J−+J−J+ )+ Jz2 [**] 2
が成立することは, (II ), (III)を掛け合わせて,
J+J−=Jx2+Jy2−iJxJy+iJyJx ・・・(1)
J−J+=Jx2+Jy2+iJxJy−iJyJx ・・・(2)
であるが,(1),(2) を辺々足し合わせで2で割れば,
1 ( J+J−+J−J+ )= Jx2+Jy2 2
となることから分かります。
[3] さらに, Jz とJ± の交換関係ですが,それぞれの定義式 [*] と(II ), (III)より,
[Jz ,J±] =[Jz ,Jx]±i [Jz ,Jy ]
=ihJy ±i (-ihJx)
= ±hJ±
すると,
[Jz,J+J−]=JzJ+J− − J+J−Jz
=(J+Jz+[Jz,J+] )J− − J+(JzJ−−[Jz,J−])
=hJ+J− −hJ+J−= 0
同様に
[Jz,J−J+]=0
よって,[**]の右辺のすべての項が Jz と可換であることが分かります。すなわち,J2,Jz は可換であることが示されました。
一方,(1),(2)の差を考えれば,
[ J+,J− ] =J+J− −J−J+
=−2i (JxJy−JyJx )=−2i ・ihJz
=2hJz
[ J+,J− ] = 2 hJz が成り立つ
が成り立つこともわかります。
[4] 他にも簡単に導けてよく用いる公式を下にまとめておきます。
公式 [ 交換関係 ] (5) J+J− = J2−Jz2+
(0) [Jx,Jy] = ihJz ,[Jy,Jz] = ihJx ,[Jz,Jx] = ihJy [角運動量の定義]
(1) [ J2,Jx ] = [ J2,Jy ] = [ J2,Jz ] = 0
(2) [ J2,J± ] = 0
(3) [ J+,J− ] = 2hJz
(4) [ Jz ,J± ] = ±hJ±
( ) [Jz,J+J−]=[Jz,J−J+]=0hJz
(6) J−J+ = J2−Jz2−hJz
(7) J2 = ( J+J−+J−J+ )/ 2 + Jz2
補足:(5)の証明は,
J2 = Jx2 + Jy2 + Jz2
= (Jx+i Jy)(Jx−i Jy)+i (JxJy−JyJx)+Jz2
= J+J- + i (ihJz)+Jz2
=J+J- −hJz + Jz2
[1] 先に求めた, [J2,Jz] = 0 より,J2,Jz の同時固有ケットが存在することがわかります[#]。J2,Jz のそれぞれの固有値λh2,μh に対応する共通の固有ケットを
|λ,μ>,すなわち,
J2|λ,μ> =λ h2|λ,μ>
Jz|λ,μ> =μh|λ,μ>
とおくと,λ,μ は次の条件を満足するときに限り定まることが証明できます。
一般化角運動量固有ケットと固有値
λ=j であるとき,
j = 整数, 半整数
m = -j, -j+1, -j+2, ・・・・, j−1, j
特に,j=1/2のとき,スピン角運動量となる。
証明
一般化角運動量の関係式,[Jz,Jx] = ihJy ,[Jy,Jz] = ihJx から,
JzJx= ihJy+JxJz
JzJy=−ihJx+JyJz
両辺とも規格化されている同時固有ケット|λ,μ>に作用させて,
JzJx|λ,μ> = ( ihJy+μhJx)|λ,μ> =h(iJy+μJx )|λ,μ>
JzJy|λ,μ> = (−ihJx+μhJy)|λ,μ> =−ih(Jx+iμJy)|λ,μ>
この第1式と第2式に±i を掛けて加算すれば,,
Jz(Jx±iJy)|λ,μ> =h((μ±1)Jx+(1±μ)iJy)|λ,μ>
=(μ±1)h(Jx±iJy)|λ,μ>
この式は (Jx±iJy)|λ,μ> がJzの固有ケットであり,固有値が(μ±1)h であることを示しています。
[2] さらに,(Jx±iJy)|λ,μ>がJ2の固有ケット(のまま)であることは,
J2(Jx±iJy)|λ,μ>=(Jx±iJy)J2|λ,μ>=(Jx±iJy)λh2|λ,μ>
=λh2(Jx±iJy)|λ,μ>
から分かります。つまり,昇降演算子 J±=Jx±iJy はJzに対する固有値がμhである固有ケットに作用して,Jzに対する固有値が(μ±1)h である固有ケットへ変換させる作用を持っていることが分かりました。
ただし,(Jx±iJy)|λ,μ>は規格化されているかどうかはわかりませんので,後で規格化を検討しなければいけません。とりあえず,
J± |λ,μ>=C±h|λ,μ±1> ,C± :規格化定数
と書いておきましょう。
[3]
さて,J2の固有値λh2 を一つ定めると角運動量の大きさ(有限値)も定まるので,対応するその成分Jzの固有値μh の値は有限となるはずです。そこで,その最大値をμmaxh,最小値をμminh と書くことにします。
この記号の下で,|λ,μmax>にJ− を繰り返し作用させていくと,固有ケットの列,
|λ,μmax>,|λ,μmax−1>,・・・・,|λ,μmin>
と対応する固有値の列,
μmaxh, (μmax−1)h, ・・・・ ,μminh
が得られます。
そこで,公式(3)[ J+,J− ] = 2hJz を<λ,μ|と|λ,μ>で挟んで,
左辺=<λ,μ|J+J− |λ,μ>−<λ,μ|J−J+ |λ,μ>
↓ 恒等演算子 Σ|λ,μ’><λ,μ’|を挿入
= <λ,μ|J+|λ,μ’><λ,μ’|J−|λ,μ>
− <λ,μ|J−|λ,μ’><λ,μ’|J+ |λ,μ>
↓ ゼロでない項を与えるのは,μ’=μ−1とμ+1の場合だけ
= <λ,μ|J+|λ,μ−1><λ,μ−1|J−|λ,μ>
− <λ,μ|J−|λ,μ+1><λ,μ+1|J+ |λ,μ>
↓ <λ,μ|J+ |λ,μ−1>=(<λ,μ−1|J−|λ,μ>)*
<λ,μ+1|J+ |λ,μ>=(<λ,μ|J−|λ,μ+1>)* より
= |<λ,μ−1|J−|λ,μ>|2−|<λ,μ|J−|λ,μ+1>|2 | =2μ |
|
左辺 | 右辺 |
[***] をμ=μmaxからμ=μmin について全部並べると,
|<λ,μmax−1|J−|λ,μmax>|2 − 0 |<λ,μmax−2|J−|λ,μmax−1>|2−|<λ,μmax−1|J−|λ,μmax>|2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |<λ,μ−1|J−|λ,μ>|2 − |<λ,μ|J−|λ,μ+1>|2 |
=2μmax =2(μmax−1) : =2μ |
(1) (2) : (μmax-μ+1) |
|<λ,μ−2|J−|λ,μ−1>|2 − |<λ,μ−1|J−|λ,μ>|2 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |<λ,μmin|J−|λ,μmin+1>|2−|<λ,μmin+1|J−|λ,μmin+2>|2 0 − |<λ,μmin|J−|λ,μmin+1>|2 |
=2(μ−1) : =2(μmin+1) =2μmin |
(μmax-μ+2) : : (μmax-μmin+1) |
[4] まず,1行目から最後の
(μmax-μmin+1)行目まで,すべて辺々足し合わせると,左辺は各項すべてキャンセルして 0 となり,
右辺はガウス少年が1から50までの和を計算した方法で計算して,
0 = (μmax+μmin)((μmax−μmin+1)h2
この式は,μmax−μmin+1>0 なので,
μmax+μmin=0
であることを意味しています。
すると,μmax−μmin=2μmax でなければいけませんが,(μmax−μmin) は昇降演算子の性質から 0 か整数でなければならないので,
μmax= 1 n n=0,1,2,3,・・・ 2
すなわち,
μ=−μmax ,−μmax+1 , ・・・ ,μmax−1 , μmax
であることが分かります。
次に,1行目から (μmax-μ+1)行目までを辺々合計すると,
<λ,μ−1|J−|λ,μ>|2 = (μmax+μ)(μmax−μ+1)h2
すなわち,
<λ,μ−1|J−|λ,μ>=
(μmax+μ)(μmax−μ+1) h
また,この式のエルミート共役を考えて,
<λ,μ|J+|λ,μ−1>=
(μmax+μ)(μmax−μ+1) h
さらに,μ→μ+1 と記号を代えて,
<λ,μ+1|J+|λ,μ>=
(μmax+μ+1)(μmax−μ) h
[5] J2については, [***] を導いたときと同様に考えて,
<λ,μ|J2|λ,μ>=<λ,μ|(( J+J−+J−J+ )/ 2 + Jz2)|λ,μ>
=<λ,μ|( J+J−/ 2 )|λ,μ>+<λ,μ|(J−J+ / 2 )|λ,μ>+<λ,μ| Jz2|λ,μ>
=|<λ,μ−1|J−|λ,μ>|2/2+|<λ,μ|J−|λ,μ+1>|2/2+<λ,μ| Jz2|λ,μ>
={(μmax+μ)(μmax−μ+1)/2+(μmax+μ+1)(μmax−μ)/2+μ2}h2
=μmax(μmax+1)h2
となり,,J2の固有値が, Jzの固有値μに関係なく,λごとに定まるμmax だけに依存することが分かります。
結局,記号を慣用に合わせて,
μmax ⇒ j
μ ⇒ m
とすると,次の通りまとめられます。
[6]
角運動量固有ケットと固有値
J2|j,m> = j(j+1)ここで,h2|j,m>
Jz|j,m> = mh|j,m>
j = 整数, 半整数
m = -j, -j+1, -j+2, ・・・・, j−1, j
昇降演算子
J+|j,m>|=
(j+m+1)(j−m) h|j,m+1>
J−|j,m>|=
(j+m)(j−m+1) h|j,m−1>
演算子の行列要素
<j ’,m’|Jz|j,m>=m
hδj’jδm’m<j ’,m’|J2|j,m>=j(j+1)
h2 δj’jδm’m
<j ’,m’|J+|j,m>|=
(j+m+1)(j−m) hδj’jδm’m+1
<j ’,m’|J−|j,m>|=
(j+m)(j−m+1) hδj’jδm’m-1
j が半整数であるときは,スピン角運動量を含み,特に1電子が持つスピンは,j=1/2 のときに対応します。