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8 ガロア拡大とガロア群 | ![]() |
f-denshi.com 最終更新日: 21/08/08 | ||
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前の2つのペ−ジで示した有限体上での方程式の解法を一般の無限体上での代数方程式の解法への拡張します。
これまでやってきたことを復習しながら要点をまとめてみましょう。
[1]
体F7上で根をもたない多項式:
φ(x)=x2−3 = 0
における多項式 φ はF7上で既約です。なぜなら,可約で(x−a)(x−b)と因数分解ができれば,a,b をF7 に根をもつはずですが,実際は新しい数 α(α2=3 )を用いないと表せませんでした。
F7上の多項式環 F7[x] の既約多項式φ(x)が生成するイデアル(φ) [#] による剰余環:F7[x]/( φ ) を考えます。(実はこれは体でもある。)2次式で割った余りですから,この剰余環の元は1次式以下となり,ax+b+( φ ) ; a,b ∈F7 と表すことができます。これを整数の剰余環にならって,
[ax+b]φ ( ∈F7[x]/(φ) )
と書いてみましょう。このとき,これまでみてきたように剰余類の計算規則にしたがって,
[ax+b]φ = [a]φ・[x]φ+[b]φ
[x]φ・[x]φ=[x2]φ = [3]φ
というような計算ができます。 ここで,F7[x]/(φ)(←これは1次式の集合でした)から F72 =F7(α) への写像
Φ: [a]φ・[x]φ+[b]φ → aα+b a,b,α ∈ F72
[a]φ → a
[x]φ → α ( α2=3 )
[b}φ → b
を考えるとこれは同型写像でした(準同型定理)。
[2] つまり,F7 からF72 を構成する方法は,
[A] [拡大体] F7 に α を添加してできる体 F7(α)
[B] [剰余体] F7[x] の剰余体 F7[x] /(φ )
の2通り (の考え方) があるのです。これは以下のように一般化できます。[#]
定理 [剰余体]
F上の多項式 φ ∈F[x] が既約多項式ならば,剰余環 F[x]/( φ ) は体である。 これを φ による剰余体という。この体をFφと書く。[#],[#]
|
[3] F は F[x]/(φ(x)) の部分体なので,F上のm次元の既約多項式
r0+r1x+・・・・+rm-1xm-1+xm ・・・・・・・・・・・・ (1)
は F[x]/(φ(x)) 上の多項式と見ることもできます。つまり,
[r0]φ+[r1]φX+・・・・+[rm-1]φXm-1+Xm ・・・(2)
と見ることができます。ここで(2)の左辺の X∈ Fφ に [x]φ∈ Fφを代入してみます。すると,(剰余類の計算規則に従い,)
[r0]φ+[r1]φ[x]φ+・・・・+[rm-1]φ[xm-1]φ+[xm]φ
=[r0]φ+[r1x]φ+・・・・+[rm-1xm-1]φ+[xm]φ
=[r0+r1x+・・・・+rm-1xm-1+xm]φ
↓∵ r0+r1x+・・・・+rm-1xm-1+xm ∈Ker Φ
=[0]φ
=0
となり,[x]φ が体 Fφ 上の方程式(2)の根であることがわかります。すなわち,
定理 F上の既約な多項式 φ = r0+r1x+r2x2+・・・・+xm は剰余体 F[x]/(φ(x)) にかならず根をもつ。 |
このことからφが F[x]/(φ(x)) 上にもつ根 α をもちいて,
φ(x)=(x−α)g(x)
ただし,g(x)は m-1次式で,g(x)∈Fφ[x]です。
g(x)が既約ならば,さらにこのg(x)に対して大きな剰余体 Fφ[x]/(g(x)) を考えてg(x) をその上で因数分解できるでしょう。これを繰り返してゆけば,最終的にφ(x)は1次の因数だけに因数分解できることが分かります。(厳密には数学的帰納法で証明する。)
[4] 任意の多項式 f(x) は,f(x)=φ(x)φ2(x)・・・φz×(1次の因数) と表されることを考えれば,
f(x) = (x−x1)(x−x2)・・・(x−xm)
と最後には完全に一次の因数に分解できる大きな体 L を見つけられることが分かります。このように因数分解できる体 K を f(x) の分解体といいます。
定義 F上の多項式 f(x) が f(x)=(x−α1)(x−α2)・・・(x−αm)と1次式に因数分解されるとき,F(α1,α2,・・・,αm) を f(x) の分解体という。 |
また,上の説明から分かるように,すべての多項式に分解体は存在します。
命題 体 F上の任意の多項式 f(x)∈F[x] に対して,F上の分解体 F(α1,・・・,αn) が存在する。 |
[5]
例 を挙げておきます。
Q上の多項式 f(x)∈Q[x] を考えます。
f(x)=x2−3x+2=(x-1)(x−2) 分解体は Q
f(x)=x2−2=(x−√2)(x+√2) 分解体は Q(√2), 拡大次数 2
f(x)=x2−2x−1=(x−1−√2)(x−1+√2) 分解体は Q(√2), 拡大次数 2
f(x)=x4−2x2+9
=(x−√2−i )(x+√2+i )(x−√2+i )(x+√2−i )
分解体は Q(i +√2), 拡大次数 4
f(x)=x3−1=(x−1)(x2−x−1) 分解体は Q(ω), 拡大次数 2
f(x)=x3−2=(x−2)(x−ω
2)(x−ω2
2) 分解体は Q(√2,ω),拡大次数 6 ・・・ [*]
(注意)
最後の [*] 式を例に説明すると, f(x)=x3−2 は,α= 2 の Q 上の最小多項式 ( =既約多項式 ) となっており,3次式です。
そして,拡大体 Q( 2) の基底は,
1,2,
22
となります。分解体の拡大次数は6次元ですが,基底は,
1,2,
22,ω,ω
2,ω
22
です。ここで,ωはQ上の最小多項式 g(x)=x2+x+1 の根で拡大次数は 2 です。
[1]
命題 体 F の代数的な元 α1,α2,・・・,αm を添加して作った拡大体 F(α1,α2,・・・,αm ) は F の有限次拡大体である。 逆に, F の(任意の)有限次拡大体 K は,F に有限個の適当な元 α1,α2,・・・,αm ∈K を添加して得られる。 |
証明は無用でしょう。 これは中間体を経由する有限次拡大の拡大次数の計算方法 [#] から自明なことです。
ガロア群と呼ばれる群の定義に必要な用語です。
定義 F の有限次拡大体 K の任意の元αの最小多項式の根(共役元 [#] ) がすべて K に属するとき,K を F の正規拡大体という。 |
例
例えば,有限体F7上の代数方程式を解くときにすでに見ています。 ⇒ [#]
・ Q(√2) はQの正規拡大である。対応する最小多項式 x2−2 の根は±√2 なので。
・ Q( 2) はQの正規拡大体ではない。対応する最小多項式 x3−2=0 は
2 以外にも ω
2,ω2
2 を根に持つが,これらは Q(
2) に属さない。
定義 有限次正規拡大が分離的 [#] である拡大をガロア拡大という。 |
有限次・正規 [#] ・分離拡大=ガロア拡大 ということです。
定理 * F 上の多項式 f(x) の分解体 K は,F の正規拡大体である。 |
特に,K/F が有限次分離拡大でもあるならば,「F 上の多項式 f(x) の分解体
K はガロア拡大である」 といえます。
証明
F上で分解体K の任意の元βを根に持つ多項式の共役元がすべて分解体K に含まれることを示せばよい。
(1) F上のある多項式 f(x) の根をα1,α2,・・・,αn とすると,分解体は K=F(α1,α2,・・・,αn) で表される。
(2) また,Kの任意の元βは,α1,α2,・・・,αnの適当な多項式 g(x1,・・・xn)∈F を用いて,
β=g(α1,α2,・・・,αn) ≡ g(…) ∈ K ・・・ [*]
と表すことができる [#]。
(3) そこで,次の方程式を考える。
Φ(x)=(x−σ1(β)) (x−σ2(β)) ・・・ (x−σn!(β))
=(x−σ1(g(…))) (x−σ2(g(…))) ・・・ (x−σn!(g(…)))
ここで,σk ( k=1,2,…,n! ) はαj (j=1,2,…,n) に作用するn文字の置換のすべて (σ1=e 単位元 ) であり,
σk(g(…))=g(σk(α1),σk(α2),・・・,σk(αn))
という意味である。特に,σ1(g(…))=e(g(…))=βなので Φ(x) はβを根に持つ。
(4) また,Φ(x) を展開したときの xべき項の係数および,定数項はα1,α2,・・・,αnの対称式になるので,σkによってそれらは不変である。
(5) つまり,Φ(x) はF上の多項式,
Φ(x)∈F[x]
となっている。
(6) ここで,βの最小多項式をφβ(x) とすると,これはΦ(x) を割り切る [#] ので,φβ(x)のすべての(βの共役)根はΦ(x) の根のいずれかに含まれる。
さらにその根は [*] よりα1,α2,・・・,αn の多項式で表されているので,分解体 K の元である。 (終)
いろいろな用語をここまで準備してきましたが,それらを用いると簡明に次の定理を述べることができます。
[5]
定理 体 F の標数が 0 である [#] ならば,任意の多項式 f(x)∈F[x] の分解体 K はガロア拡大である。 |
証明
標数 0 の体 F の代数拡大体は F 上分離的 [#] であり,定理*より F上の任意の多項式の分解体はFの正規拡大であることも分かる。 (終)
この定理はガロアの理論において非常に重要な定理といえますが,有理数体Q上の多項式ではほぼ自明なことです。
[6] 有限次拡大の単純性です。
定理 F(α,β)=K が F の有限次分離拡大体ならば,K は F の単純拡大体 [#] F(θ),θ∈K で表される。 |
証明 体の元の個数が無限の場合について示せばよいでしょう。(有限の場合は原始元の存在としてすでに証明しています。[#] )
(1) α=α1,β=β1のそれぞれの最小多項式とその根のすべてを,
φ(x) ; α1,α2,・・・,αm
ψ(x) ; β1,β2,・・・,βn ← 分離拡大なので重根はない
とする。ただし,これらは有限個なのでこれらとは異なる元 c∈F が存在する。
(2) この c を用いて,
θ=α+cβ ∈ F(α,β)
とおくと,明らかに
F(θ)⊂F(α,β) ・・・・ (1)
である。
(3) 次に,この逆の包含関係を示したい。 F(θ) 上の多項式
Φ(x)=φ(θ−cx ) ∈ F(θ)[x], c ∈ F ⊂ F(θ)
を考えると,
Φ(β)=φ(θ−cβ)=φ(α)=0
を満たす。
(4) 一方,適当な c を選んで,βj ( j=2,3,…,n ) に対して,
θ−cβj ≠ αk (k=1,2,…,m)
となるようにしておく。(有限個のkに対して,cは無限この中から選ぶので必ず選び出せる!) そのとき,
Φ(βj )=φ(θ−cβj )≠φ(αk)=0
を満たしている。
(5) すると,Φ(x) とψ(x) は最大公約因数として,
x−β ←1次の因数でβ=β1だけを含んでいるのがいいんです!
だけをもっている。Φ(x)はもちろんのこと,ψ(x) ( ∈ F[x] ⊂F(θ)[x] ) も F(θ)上の多項式なので,それらの最大公約因数 (x-β) も F(θ)上の多項式である。よって,
β ∈ F(θ)
である。さらに,これを利用して,
α=θ−cβ∈ F(θ)
も直ちにわかる。
(6) よって,
F(α,β)⊂F(θ)
が成り立つ。この結果と (1) とを合わせて,
F(α,β) = F(θ)
が示された。(終)
この定理を繰り返し適用すれば,n 個の元を添加する有限次分離拡大体に対して,
F(α1,α2,・・・αn)=F(θ)
を示すことができます
[1] 念のために書いておくと,
定義 体 K から体 K’への上への1対1写像が, σ(α+β)=σ(α)+σ(β)をみたすとき,σを(体)同型写像という。 |
α,βは K の任意の元です。
[2] 自己同型写像の定義も正確に書いておきましょう。
定義 体 K,K’が体 F の拡大体であって,K から K’への同型写像σがすべてのα∈F に対して, σ(α)=α ; α∈Fであるとき,σを K から K’への F 上の同型写像という。特に K’=K の場合は,F上のK自己同型写像という。 ( (Kの部分体) F の元を動かさない同型写像という言い方もします。) |
σ,τ・・・ を K自己同型写像とすると,それらの逆元,積,および,恒等写像もすべて自己同型写像であることは容易に確かめられ,それらの元全体は群をなします。この群を F上のK自己同型群 といい,G(K/F) と書きます。
特に,K が F の代数拡大体であるとき,α∈K の最小多項式を
φ(x)=c0+c1x+c2x2+・・・・+xn
とし,ここへ根の一つαを代入すれば,
c0+c1α+c2α2+・・・・+αn = 0
が成り立ちます。この式の全体に K の自己同型写像の一つを作用させると,各 ck∈F は不変なので,
c0+c1α'+c2α'2+・・・・+α'n = 0 ただし,σ(α)=α'
となります。つまり,α' も最小多項式の根となっています。言い換えると,
σは最小多項式の根αを共役な根α'へ写す写像である。
ことが分かります。
定義 体 K を F のガロア拡大体 [#] とするとき,F 上の K 自己同型写像全体の作る群 G(K/F) を ガロア拡大 K/F のガロア群という。 |
命題 ガロア群 G(K/F) の位数cは無限にあるがは体 F から K へのガロア拡大の次数 [ K:F ] に等しい。 |G(K/F)|= [ K:F ] |
証明
(1) ガロア拡大 K/F に対して,適当なθ∈K を選んで,K=F(θ) とする [#]。
(2) θの最小多項式は,
φ(x)=c0+c1x+c2x2+・・・・+xn
=(x−θ1)(x−θ2) ・・・ (x−θn) … (1)
とK上で1次まで因数分解することができ [#],その次数 n は,拡大次数は [K:F] に等しい [#}。
(3) 最小多項式にθ (=θ1) を代入して,
c0+c1θ+c2θ2+・・・・+θn=0
ここで,ガロア拡大 K/F のガロア群 G(K/F) の任意の元σによるθの像を,σ(θ)=θ' として,上式にσを作用させると
c0+c1θ'+c2θ'2+・・・・+θ'n=0
つまり,θ'も(1)の根なので,σによってθは共役な元θ’に写る。
(4) また,K の任意の元αは,
α=a0+a1θ+a2θ2+・・・・+an-1θn-1 ・・・・・ [*]
と一意的に表される [#] ことを考慮すれば,σの像θ'として共役な根θk (k=1,2,…,n) のいずれかを対応させることで,K の F 上の自己同型写像σk∈G(k/F) のすべてが一意的に定められる。
(7) 正規拡大 [#] では,すべての共役元θk は K に属して,F(θk)=K である。
以上から
n = [k/F の拡大次数] =[θkの個数] = [σkの個数] =[ガロア群の位数]
である。 (終)
例
f(x)=x2−2 の分解体 Q(√2)を考えると,これはQの2次の拡大体であり (基底は1,√2),根√2の共役根−√2も含むので正規拡大であり,分離拡大でもある [#] のでガロア拡大である。
Q上のQ(√2)自己同型写像は,a,b∈Q として,
e (a+b√2)=a+b√2 (恒等写像)
σ(a+b√2)=a−b√2 σ(√2)=±√2
を定めることができる。σの逆元はσ自身である。ガロア群は G( Q(√2)/Q)= { e,σ} である。
したがって,
|G( Q(√2)/Q)|=2=[ G( Q(√2):Q) ]
が成り立っている。