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3 正則関数 | |
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[1]
複素関数が連続であることの定義は実数の場合と形式は同じです。
(1) ある領域Dの点z0において, 0<|z−z0|→ 0 ならば,|f(z)−f(z0)|→ 0 が成り立つとき,「f(z) は z0 で連続である」といいます。 (2) 領域D のすべての点で関数が連続であるとき D上の連続関数といいます |
ただし,複素数値の絶対値|z−z0|が 0 に近づくとは,複素数の動径が 0 に近づくことを言っているだけで,偏角については何も規定してません。つまり,どんな方向から z0 へ近づいた場合でも|f(z)−f(z0)|→ 0 となる必要があり,上の定義を使いにくいものにしています。これは多変数関数の微分可能性の判定と同じ難しさがあります。
[2] なぜならば,複素関数 w=f(z) は z=x+i y とすれば,
w=u+i v
=u(x,y)+i v(x,y)
と書けることに注意すれば,複素関数の連続性,
z → z0= x0+i y0 ⇒ w → w0 =u0+i v0
は,
x → x0 かつ,y → y0 ⇒ u → u0 かつ,v → v0
と書き直すことができます。これは,
2つの2変数関数,u=u(x,y),v=v(x,y)が,点(x0,y0)で(または領域D で)ともに連続関数である。」
ための条件と同じですね。
[1] 複素関数の微分の定義です。
f(a+h)−f(a) =f'( a ) ; a∈D h
が存在するとき,
「f(z)は点a で微分可能」といい,その値を f'(a) と書きます。
さらに,領域D のすべての点で微分可能なとき,
「f(z)は領域D で微分可能」といい,f'(z) を f(z) の導関数といいます。
[2] この定義は実数の場合と見た目の形式が同じでわかりやすいのですが,連続の定義と同じく,複素数 h がガウス平面上のどの方向からも 0 に近づけることを考慮しなければなりません。 しかし,幸いなことに「コーシー・リーマンの関係式」と呼ばれる簡便な微分可能性の判定方法があります。
変数z とその複素関数f(z) を成分で書いて,
z=x+iy
w=f(z)=u(x,y)+i v(x,y)
とします。ここで,u=u(x,y),v=v(x,y) はC1級の関数[#] です。
[3] f(z)が z=x+i y で(全方向)微分可能ならば,特に x 軸方向,y軸方向からも微分可能で,その導関数は同じ f'(z)となるはずです。実際に計算して比較すると必要条件が求まります。まず,
x軸に沿って
f'(z)= {u(x+h,y)+i v(x+h,y)}−{u(x,y)+i v(x,y)} {(x+h)+i y}−{x+i y}
= {u(x+h,y)−u(x,y)} + i {v(x+h,y)−v(x,y} h h
= ∂u(x,y) +i ∂v(x,y) ∂x ∂x
y軸に沿って
f'(z)= {u(x,y+h)+i v(x,y+h)}−{u(x,y)+i v(x,y)} {(x+i (y+h)}−{x+i y}
= {u(x,y+h)−u(x,y)} + i {v(x,y+h)−v(x,y} ih ih
= −i ∂u(x,y) + ∂v(x,y) ∂y ∂y
[4] f(z)が微分可能ならば,これらは等しくないといけないので,上の2つの計算結果を等しいとして,
∂u(x,y) = ∂v(x,y) [実数部分から] ∂x ∂y
− ∂u(x,y) = ∂v(x,y) [虚数部分から] ∂y ∂x
が得られます。これが,f(x)が微分可能であるための必要条件で,コーシー・リーマンの関係式といいます。
これらが十分条件であることの証明
u,v がC1級の関数であることから,平均値の定理を用いると,
Δu(x,y)=u(x+Δx,y+Δy)−u(x,y)= | ∂u | Δx+ | ∂u | Δy+ε1Δx+ε2Δy |
∂x | ∂y |
Δv(x,y)=v(x+Δx,y+Δy)−v(x,y)= | ∂v | Δx+ | ∂v | Δy+ε3Δx+ε4Δy |
∂x | ∂y |
ここで,Δx→0 のとき,ε1,ε3→0。 また,Δy→0 のとき,ε2,ε4→0 でなければならない。一方,
Δf =Δu(x,y)+i Δv(x,y)
= | ∂u | Δx+ | ∂u | Δy+ε1Δx+ε2Δy +i | ![]() |
∂v | Δx+ | ∂v | Δy+ε3Δx+ε4Δy | ![]() |
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∂x | ∂y | ∂x | ∂y |
コーシーリーマンの関係式を用いれば,
= | ∂u | Δx− | ∂v | Δy+ε1Δx+ε2Δy +i | ![]() |
∂v | Δx+ | ∂u | Δy+ε3Δx+ε4Δy | ![]() |
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∂x | ∂x | ∂x | ∂x |
= | ∂u | (Δx+i Δy)+i | ∂v | (Δx+i Δy)+εxΔx+εyΔy | |
∂x | ∂x |
ここで,Δx→0 のとき,εx (=ε1+ε3) → 0。 また,Δy → 0 のとき,εy (=ε2+ε4) → 0 とならなければなりません。一方,Δz = Δx+i Δy であることに注意すれば,
|Δx|/|Δz|≦1, および, |Δy|/|Δz|≦1
なので,結局,
Δf = ∂u +i ∂v +εxΔx/Δz+εyΔy/Δz Δz ∂x ∂x
= ∂u +i ∂v ( Δz → 0 ) ∂x ∂x
となり,導関数が存在することが示されます。
[5] 具体例をあげておきましょう。 f(z)=z2 について調べてみると,z = x+iy として,
f(z)=(x2−y2)+2i xy ⇒ u(x,y)=x2−y2 , v(x,y)=2xy
であるから,
∂u(x,y) =2x= ∂v(x,y) ∂x ∂y
− ∂u(x,y) =2y= ∂v(x,y) ∂y ∂x
となり,これはまさにコーシーリーマンの関係を満たしています。そして,f'(z)は,
df = ∂u +i ∂v =2(x+iy)=2z dz ∂x ∂x
となっています。
[6] これらをまとめておくと,
コーシー・リーマンの関係式 複素関数 f(z)=u(x,y)+i v(x,y); z=x+iy が微分可能な必要十分条件は, である。 |
[7] この式は,さらに
u(x,y),v(x,y) がC2級ならば,コーシー・リーマンの関係式を用いて計算すると, ←つまり, uxy=uyx , vxy=vyx
∂2u(x,y) + ∂2u(x,y) = ∂ ∂u + ∂ ∂u ∂x2 ∂y2 ∂x ∂x ∂y ∂y
= ∂ ∂v − ∂ ∂v = 0 ∂x ∂y ∂y ∂x
が得られます。同様に,
∂2v(x,y) + ∂2v(x,y) =0 ∂x2 ∂y2
も成り立ちます。つまり,微分可能な関数には,
u(x,y),v(x,y)が調和関数(ラプラス関数)である
という非常に強い制限が存在しているのです。
[8] 最後に,「正則関数とは」と問われたときのためにいろいろな正則の言い方(条件)を述べておきます。
正則関数を,f(z)=u(z)+i v(z) とすると、 (1) コーシーリーマンの関係式を満たす。[#] 応用的な面を意識して次の言い方も重要, (4) 正則関数は,” rotA =divA =0 を満たすベクトル場 A =[−u(x,y),v(x,y)] ” と同値 ⇒ 渦無し,湧き出しなしの2次元ベクトル場 を参考にして下さい。 |
[9] 正則関数の重要ないくつかの性質についてはAppendix II [#] にもまとめました。
次のページではこの(3)についてみていきましょう。正則関数は必ずべき級数で表すことができるのです。これを解析的である [#] といいます。
「(2) f(z) を z* で微分すると 0,つまりz だけで表せる。」
証明
まず,z と z* を独立した2変数関数のように扱うと,
z=x+i y ,z*=x−i y ⇔ x = z +z* , y = z −z* 2 2i
∂x = ∂x = 1 , ∂y = 1 , ∂y =− 1 ∂z ∂z* 2 ∂z 2i ∂z* 2i
となることを確認しておきます。このとき,f(z)=u(x,y)+i v(x,y)の x,y に関する偏微分は,
∂f(x,y) = ∂u(x,y) +i ∂v(x,y) ∂x ∂x ∂x
∂f(x,y) = ∂u(x,y) +i ∂v(x,y) ∂y ∂y ∂y
これらを用いると,f(z) の z* での微分が,
∂f = ∂f ・ ∂x + ∂f ・ ∂y ∂z* ∂x ∂z* ∂y ∂z*
= ∂u(x,y) +i ∂v(x,y) 1 + ∂u(x,y) +i ∂v(x,y) -1 ∂x ∂x 2 ∂y ∂y 2i
= 1 ∂u(x,y) − ∂v(x,y) +i ∂u(x,y) + ∂v(x,y) 2 ∂x ∂y ∂y ∂x
と計算できます。ここで,最後の式が0に等しいならば、その実部,虚部ともに0でなければなりませんが,それは次のようにコーシーリーマンの関係式とおなじです。
∂u(x,y) = ∂v(x,y) ,および, − ∂u(x,y) = ∂v(x,y) ∂x ∂y ∂y ∂x
つまり,f の z* での微分が0となることと,f(x,y) が正則関数であることは同値。
ちなみに、
∂ = 1 ∂ −i ∂ ,および, ∂ = 1 ∂ +i ∂ ∂z 2 ∂x ∂y ∂z* 2 ∂x ∂y