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10 電流が作る磁場: アンペールの法則とフレミングの左手の法則 |
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f-denshi.com [目次へ] 最終更新日:03/05/19 | ||
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[1] ビオサバールの法則からアンペールの法則が導かれます。
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[積分形の証明 ] ビオサバールの法則から導きます。
記号の混乱を防ぐために右図のように上の「アンペールの法則」における,任意の空間内の線積分経路の微分量を
ds → du
と書き直して説明します。( ds は電流ループに沿う微分量に使います。)
すなわち,
アンペールの法則: H ・ du = I
という記号の下で証明します。
[2] 右図のように座標をとるとき,電流ループ C0 の微小部分 ds が原点Oに作る磁場 dH は,ビオサバールの法則[#]において, r → −r として,(←後ほど立体角を利用できるように,数学で一般的な方向を +r としました。右図。)
dH = I ds×(−r ) 4πr3
と書けます。したがって,電流ループC0全体が原点O に作る磁場は,C0上の線積分,
H = I ds ×(−r ) 4πr3
を計算することで求まります。すなわち,アンペールの法則の左辺の閉曲線Cにそった線積分は,
H ・du = I ds ×(−r ) ・du ・・・・・ [*] 4πr3
となります。
[3] ここからさらに計算を進めるためには,ちょっとしたテクニックが必要なんですが,ループ C0 の作り出す磁場を考えるとき,
「 空間の原点 O から du だけ離れた位置 du に電流ループ C0 が作り出す磁場 」
と
「電流ループ C0 を−du だけ移動させた後に電流ループ C0 が原点 O に作る磁場 」
は等しいことを利用します。つまり,定義どおりにループ Cに沿って移動しながらH の線積分を計算する代わりに,Cと正反対の軌跡(位置関係の相対性)を持つループC1に沿って(図参照)電流ループC0を動かしながら原点O にできる磁場を積分することも同じであることを利用するのです。
そのためには線積分 [*] の積分範囲,積分変数を
C → C1, du →−du
と読み替えて,
H ・du = I ds ×(-r ) ・(-du ) 4π r3
を計算すればよいことがわかります。 なお,2回でてくるマイナス符号はこれ以後,キャンセルしてしまいましょう。また,r の定義がビオサバールの法則の説明のときとは逆になっていることは忘れないように。
[4] この式をよく見ると,[ ]の部分は電流ループ C0 が du だけ移動したときの「原点O から見たC0 の張る立体角」の変化 ,
dΩ= ds×r ・(du) r3
に等しいことに気がつきます。 なお,立体角については「ベクトル解析」を勉強してください⇒[#]。 これを用いると,
H ・du= I dΩ ・・・[**] 4π
と書くことができます。( I は定電流として積分の外に出しました。)
[5] 結局,問題はループ C1に沿った立体角の積分計算(これはただの数学の問題です)に帰結されたわけです。ここで電流ループC0とループC上の点Oの相対的な位置の変化は,電流ループをC1に沿って動かす場合も点OをCに沿って動かしても同じであることは先ほど述べたとおりです。
[**]の右辺の値は,C1にそってちょうど一周するとき,すなわち,Cに沿って点OがC上を一周するとき,
[A] その点Oの軌跡が電流ループC0 を貫いていなければ,立体角の積分は 0 ,すなわち,
H ・ du = 0
となります。一方,
[B] 電流ループの張る面を正方向に貫くように軌跡 が交わっていれば,立体角の積分値は4πなので[#],
H ・du = I
ここでも立体角の計算はベクトル解析[#]を参考にしてください。
[微分形]の証明
[6] ストークスの定理[#]より,ループ C が作る任意の曲面S上の面積ベクトルをdSとするとき,
H ・ ds = rotH ・dS
が成り立ちます。一方,ループC の張る曲面を貫く全電流 I を電流密度 j を用いて書き直せば,
I = j ・dS
したがって,アンペールの法則は,
rotH ・dS = j ・dS
と書き直すことができます。そして,この関係が任意の曲面Sについて成り立つので,
rotH = j
となります。
ただし,ここまでの議論は定常電流を前提にしており,そうでない場合,この式は不正確な式となります。なぜならば,一般的に電荷保存則[#],
div j + ∂ρ =0 ∂t
が成立しなければなりませんが,先ほど導いたアンペールの法則の発散を考えると,ベクトル解析の公式[#]より,
div j = div rot H =0
となり,電荷密度の変動があるような場合,アンペールの法則と電荷保存則と相容れないことになるからです。今,電荷保存則が正しいとすれば,アンペールの法則には修正が必要です。その式には,
div?= ∂ρ ∂t
となるような?が右辺に付加されなければいけません。そこで,ガウスの定理,
div D=ρ(r )
を思い出すと,
?= ∂D ∂t
とすればよいことがわかります。時間と空間微分の順序は交換して構わないので,
div ∂D = ∂div D = ∂ρ ∂t ∂t ∂t
という計算が可能だからです。結局,より一般的なアンペールの法則は,
rot H = j + ∂D ∂t
とすべきことがわかりました。
[7] (10/06/21追記)
特に,rotH =0 である領域では,ベクトル解析の定理[#]により,
−gradφm=H
を満たすスカラー関数φmが存在します。このφmを磁位といいます。さらに,立体角の微分量が,
dΩ(u)=Ω(u+du)−Ω(u)=gradΩ(u)・du
と書けること[#],および,
dΩ= ds×r ・du r3
とを比較して,
gradΩ= ds×r r3
したがって,ビオサバールの法則は次のようにも変形可能です。
H = I ds ×(−r ) =− I gradΩ 4πr3 4π
よって,rotH =0 である領域では,この右辺は,−gradφmに等しいとおくことができ,
磁位の定義
ある位置から電流ループを見たときのループの立体角をΩとするとき,その位置の磁位を
,
φm= I Ω [磁位] 4π
とする。(H が渦を巻いていない場所で)
と磁位を定義することができます。磁荷を電荷に対応させるような定義の仕方もありますが,それは磁荷を定義してから説明します。
実は,フレミングの左手の法則についての説明は既に済んでいます。これをおさらいした後で,フレミングの左手の法則が,電磁気学に現れる物理量の中でもっとも最初に定義される単位である ”アンペア[A]” の定義にどうかかわっているのか説明します。
フレミングの左手の法則 磁場の中におかれた電流要素 I ds に働く力は dF =I ds×μ0H ( = I ds×B ) で与えられる。また,速度 v で運動する電荷に対しては, F =Qv ×μ0H ( =Qv ×B ) |
[1] 距離r のところに平行におかれた導線0と導線1に電流が流れているとき,どのような力がこの2本の導線の間に働くのか考察します。 8〜9章 [#] で見たように速度 v で運動する電荷 Q が磁場 H0 から受ける力は,
F = μ0Qv ×H0
となりますが,ここで Qv を導線1に流れる電流微小要素 I1ds1 とみなして置き換えれば,
dF1 (親指)= μ0 I1ds 1 (中指) × H0 (人差し指) ← もちろん左手で,・・・
と書けます。これはフレミングの左手の法則そのものです。
[2] 一方, H0 がビオサバールの法則によって導線0に流れる電流の微小要素 I0 ds0 が作る[#]がつくる磁場,
dH0 = I0 ds0 ×r 4πr3
の重ね合わせ,∫dH0 で得られるときは,これをH0 の代わりに用いて,
dF 1 =(μ0I1)ds1× dH0 = μ0 I0 I1 ds1×(ds0×r ) 4πr3
が得られます。この積分の中身に着目すると,これは導線1の電流要素 I1ds1( =Qv ) が導線0の流れる電流要素 I0 ds0 の作る微小磁場 dH0 から受ける力とみなすことができます。これを2次の微分量として,
d2F 1 =( μ0I1 ) ds1×dH0 =μ0 I0 I1 ・ | ds1×(ds0×r ) | ・・・ [***] |
4πr3 |
と書くことができます。対称性から反作用としてのd2F 0も存在して,
d2F 0 = ( μ0I0 ) ds0 × dH1 = μ0I0 I1 ・ | ds0×(ds1×r ) |
4πr3 |
と記述できます。(記号の意味は下図を参照してください。)
これから磁力とは,
|
とみなすことができ,この様子はしばしば,
2つの電荷 Q0 と Q1 とに働くクーロン力 = 1 Q0・Q1・r ε0 4πr 3
と対比させられます。これはE-B対応と呼ばれる電磁気学の体系化のよりどころでもあります。
[3] また,この式は電流の単位,アンペア[A]の定義に使われます。
電流の単位1Aの定義 |
すると,上の式[***]において,それぞれの導線 1m にわたって積分した値 ( I0 =I1=| ds1|=|ds0|=|r |=1), μ0/4πを 10-7 に等しいと置くことで,真空中の透磁率は,
μ0 = 4π×10-7 = 1.256637061×10-6 [Hm-1]
とただちに計算されます。そのようなワケで真空の透磁率はきりのいい数値,4π×10-7 になっているのです。
これを基にして,1 [A] の電流が流れている導線の断面を1秒間に通過する電荷量(電気量)を1[C] と定めます(電荷量の定義)。さらに,真空中に2つの1[C] の電荷を 1m 離しておき,この電荷間に働く力の大きさの側定値 f [N] = 1/(4πε0) から,誘電率ε0を計算して求めることができるはずです[#]。しかし,実際はより精度の高い値の得られる光速度 c = 2.99792458×108 [m/s] を用いて,
ε0 =1 / ( μ0c2)
なる関係[#] より,ε0 が算出されます。ちなみに,
f = 8.9878・・・×109 [N]
ε0 = 8.854187817・・・×10-12 [F/m]
電磁気学の理論体系における真空の誘電率 ε0 は,クーロンの法則とともに最初に現れる物理定数ですが,実験的にはかなり従属的な量と言えます。
追加 (09/05/01):
1Aの定義,その2(積分形): 1[m]だけ離して平行におかれた無限に長い導線に同じ方向に同じ大きさの電流を流したときに働く引力が導線1m当たり 2×10-7[N] であるときの電流値を1[A]とする。 |
この定義の由来は,R [m] だけ離して平行におかれた無限に長い導線に同じ方向に同じ電流を流したときに働く引力は導線 ds [m] あたり,
dF = dQvμ0 I = dsμ0 I2 2πR 2πR
で与えられることを利用します[#]。ここで,dQv=Ids とおいています。
こちらの方が法律で定められた正式な定義です。とは言っても無限に長い導線など実験的に準備できないので,実際はソレノイドを用いて1アンペアを決めているようですが・・・。また,この定義だけ見た人は,なぜ,10-7に2という係数がかかっているかわかりにくいと思う。じゃあ,なぜ,10-7 なのかって?たぶん,そうすると一郎君が100ワットの電球をスイッチオンしたときに流れる電流が1Aになるからだと思う???