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101 量子力学の原理 |
f-denshi.com 更新日:16/06/25 (仮) | |
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量子力学の様々な概念は古典力学にそのアナロジーを求めることもできますが,厳密に言えば,古典力学から量子力学へ演繹的に到達することは不可能です。ニュートンの3つの力学法則と同様に量子力学はいくつかの基本原理から成り立っており,これらは証明できるものではありません。ここにはその原理を書き並べましたが,初めての方はざっと目を通すだけで十分です。 ちょっと,抽象的過ぎるので...。(厳密に理解しようとすれば,リー環の表現論,関数解析など相当高度な数学を勉強しなければならないが,それをやってると普通に優秀な人でも10年はかかるし,理論物理学で生計を立てることになった輩が後付けで知識に加えていけば十分で,他の人はそんなこと知らなくても量子力学をそこそこ使いこなすことはできると思う。)徐々に具体例を通して慣れていく方が合理的です。
[1] 量子力学の原理を述べます。番号がついていますが,これは説明の都合でつけただけで,ニュートンの法則のように第*法則と呼ばれているわけではありません。
量子力学状態は,ケットと呼ばれるベクトル |ψ> で表される。 |
|ψ>と0でない複素数cを乗じたc|ψ>も同一の力学状態と考えます。つまり,方向だけが意味を持ち大きさは関係ないということです。しかし,あとで述べるように大きさが1となるように規格化して用います。
また,厳密には,ベクトル空間ではなく,ヒルベルト空間,さらにはそれを無限自由度の系へ拡張・modify していかなければいけないということは「お話」として知っておいてください。
観測可能な量子力学状態を表すベクトル|A'>は,エルミート演算子 A による固有方程式, A|A'>=A'|A'> を満足する。ここで,固有値 A' は観測される力学量,固有ベクトル|A'>は対応する状態を表す。 |
ここで,エルミート演算子の固有値 A'は必ず実数値をとり[#],位置,運動量,エネルギーなど観測される力学量に対応します。 また,|A'> を固有ケット(=固有ベクトル)といい,力学量 A' を与える力学状態を表します。
具体的にいえば,位置 x' にある力学状態 |x'> は,位置演算子 x を用いた固有方程式,
x|x'> = x'|x'>
を満足します。一方,運動量 p' にある力学状態,|p'> は,運動量演算子 p を用いた固有方程式,
p|p'> = p'|p'>
を満たすという具合です。
この方程式を満足する必要があるために有限自由度,例えば,陽子に捕捉された電子(=要するに水素原子)などの運動量,エネルギーは,トビトビの不連続な値しか取れなくなります。これは量子力学を古典力学から隔てている重要な特徴の一つです。
[2] 固有方程式は,一般に複数の解(固有値&固有ベクトル)をもちますが,その解を |A1>,|A2>,|A3>, ・・・ とすると,その線形結合,
|ψ >= Σcj|Aj>
もこの方程式の一般解となります(重ね合わせの原理)。したがって,任意の力学状態はこの|ψ> のようにあらわすことができ,これを状態ケットと呼びます。
これまで述べてきたことをハイゼンベルクの行列力学とも呼ばれる量子力学の記述法の一つを用いるならば,
(1) |A'> は縦ベクトル
(2) A は行列
で表されます。
A|A'>=A'|A'>
⇔
A11A12・・・A1n a'1 = A' a'1 A21A22・・・A2n a'2 a'2 : ・・・・・ : An1An2・・・Ann 'an a'n
このベクトルと行列で表した固有方程式と同じ内容をその複素共役を用いた表現で表すこともでき,それを
<A'|A* = <A'|A' ⇔
=(a'*1,a'*2,・・・,a'*n) A*11A*21・・・A*n1 =(a'*1,a'*2,・・・,a'*n)A' A*12A*22・・・A*n2 : ・・・・・ : A*1nA*2n・・・A*nn
と書くことにします。 これを双対対応と言います。
( ここで,固有値A' は実数なので,A'=A'*であることに注意しましょう。 |A*はA†とも書きます。また,ベクトルの次元nは有限とは限りません!)
[3]すると,任意の2つの固有ケット|A'>,|A''> の間に次のような内積が定義できます。
<A'|A''> = (a'*1,a'*2,・・・,a'*n) a''1 = a'*1a''1 + a'*2a''2 + ・・・ a'*na''n a''2 a''n
特に,同じ固有ケット自身の内積,<A'|A'> の値は常に正です。 また,|A'> が固有ケットならば,任意の数 c をかけてもそれは同じ固有値に対応する固有ケットなので,
c|A'> ⇒ |A'>
と固有ケットを選びなおすことで,
<A'|A'>=1 ← cc*<A'|A'> = 1 となるように c を選べばよい。
となるようにすることができます。そうすれば,エルミート演算子において異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交することと合わせて,
<Aj|Ak>=δjk
とすることができます。 また,連続的な固有値 [#] をもつ位置固有ケットの場合は,
< x'|x''>=δ(x'−x'')
を満足する必要があります。量子力学において,すべての固有ケットはこの条件を満たすように選ぶことと約束します。この操作を規格化するといいます。このような約束をする理由は後ほど述べように,「この内積に「確率」という物理的な意味が付随する」ためです。 当然のことながら一般的な状態ケット:|ψ >= Σcj|Aj> についても <ψ|ψ >= 1 となるように,すなわち,
Σ|cj |2=1
と約束しておきます。
数学的にはAがエルミート演算子でない固有方程式も存在しますが,その場合,固有値は複素数になることがあります。そのようなときは一体どんな意味があるのでしょうか? それは,いくつか具体例に触れ,量子力学的な考え方に慣れてから説明します。
[4]力学状態(運動のようす)は考えている時刻における,粒子の位置 |q >=(q1',q2',q3') と運動量 |p>=(p1',p2',p3') がわかれば定まるということで,この2つは古典力学同様,量子力学でも特別の地位を占めていますが,3次元の位置演算子 q=(q1,q2,q3)と運動量演算子 p=(p1,p2,p3) に対しては,次のような基本原理が要請されます。
[qj,pk]=qjpk−pkqj=i [qj,qk]=[ pj,pk]=0 ( j,k = 1,2,3 ) |
ここで,i =(-1)1/2 は虚数単位,h =h/2π で,h はプランク定数とよばれ,
h : 6.63×10-34 [J・s] ← 角運動量と同じ単位です!
という値をとります。(プランク定数についてはあとで説明します。)
ここでの[ , ]は古典力学と同様にポアッソンの括弧式と呼ばれます。この交換関係から,
x ⇒ x, y ⇒ y, z ⇒ z
px ⇒ −i
h∂ , px⇒−i
h∂ , px⇒−i
h∂ ・・・・・・ [*] ∂x ∂y ∂z
とすれば,微分方程式で表した固有方程式(=(定常状態の)シュレーディンガー方程式)が得られます[#]。
この関係式から量子力学では,「粒子の位置と運動量は同時に決定することはできない」という古典力学にはない不確定性(原理)が導かれます。
スピンが関与する場合は,さらに別の交換関係が導入されます。
[5] つぎに力学状態の時間発展を予測する ''運動方程式'' として,
ある粒子の力学状態の変化は時間依存のある状態ケット|ψ,t > で完全に記述され, これは,
にしたがって,時間変化する。 ただし,H はハミルトン演算子[#] である。 |
ハミルトン演算子は,古典力学におけるハミルトニアン[#] に対応しており,簡単な場合は, [*] を用いて,
H≡p2/2m+V(r )
=− h2/2m∂2 + ∂2 + ∂2 +V(r ) ∂x2 ∂y2 ∂z2
=− h2∇2+V(r ) 2m
となり,その力学状態の持つエネルギーに対応するエルミート演算子です。すべての力学情報は,シュレーディンガー方程式の解に含まれているということもでき,古典力学の第一法則(時間を含む微分方程式)に対応します。したって,量子力学の問題では,この方程式をたてて必死に解くことになります。
ハミルトニアンH は,古典力学の力F がそうであるように,ひとつひとつの物理現象に応じて探し当てなければならない類のもので,いつもこのように簡単に表されるとは限りません。
[6] 第4番目の原理は状態ケットに含まれている''情報''は何か述べたものです。
状態ケット|ψ,t>で表される力学状態にあるとき,ある力学量を測定したとき,測定値 A' を得る確率は, |<A'|ψ,t>|2 で与えられる。特に,
は力学量Aの期待値を与える。 ここで,Σは,とり得るすべてのA'の値にわたって和をとります。 |
期待値とは,ある力学量を繰り返し,何回も測定した場合に得られる平均値のことです。ここで注意しておかなければならないことは,この原理が,「実験には誤差がつきものだ」 ということを述べてるわけではないということです。自然に備わっている本質的なものとして捉える必要があります。また,2番目の式は,
Σ A'|<A'|ψ,t>|2 =Σ <ψ,t|A'> A'<A'|ψ,t>
=Σ <ψ,t|A|A'><A'|ψ,t>
↓ Σ|A'><A'=I 恒等演算子 [#]
=<ψ,t|A|ψ,t>
と書き表すことも可能です。
[7] 特に,位置固有ケットと状態ケットとの内積,
< x'|ψ,t> ≡ ψ(x',t)
は位置と時間の関数となりますが,これを波動関数と言います。原理4によれば,ある力学状態が時刻tに位置 x' に見出される確率は,
|< x'|ψ,t>|2 =| ψ(x',t)|2≡ρ(x',t)
で与えられます。したがって,3次元空間において,
ある時刻 t に空間 V に粒子を見つける確率は,
であたえられる。 |
波動関数の|ψ(r,t)|2 は位置の確率分布関数なのです。ここで,|ψ(r,t)|2 は ψ(r,t) とその複素共役関数 ψ*(r,t) との積:
|ψ(r,t)|2=ψ*(r,t)ψ(r,t)
で定義されていることにも注意してください。
ψが確率の意味を持つので,全空間のどこかで粒子を見出す確率,つまり全空間での内積の積分がちょうど1となるように定義することが便利です。すなわち,
|ψ(r,t)|2dxdydz=1
と約束しておきます。これは波動関数の規格化です。
[8] 最後にハイゼンベルグの行列力学と シュレーディンガー波動方程式 との関係について補足しておきます。
ベクトルと見立てたケットで表したシュレーディンガー方程式は,
i h∂ |ψ,t>=H|ψ,t> ・・・・・ [*] ∂t
です。この式から波動力学への移行は,
H=− h2∇2+V(r,t) 2m
の場合,位置の連続基底のブラ,<r'| を[*]の左からかけて,
i h∂ <r'|ψ,t>=<r'|H|ψ,t> ∂t
=− h2∇'2<r'|ψ,t>+V(r',t)<r'|ψ,t> 2m
ここで,<r'|ψ,t>⇒ψ(r,t) とすれば[#],これはシュレーディンガーの波動方程式:
i h∂ ψ(r,t)=− h2∇'2 ψ(r,t)+V(r,t)ψ(r,t) ∂t 2m
に他ならないことがわかります。
Wikipedia では,
演算子形式の量子力学では,
状態は、ある複素ヒルベルト空間の規格化されたベクトルで表される。
オブザーバブルは、複素ヒルベルト空間上の自己共役作用素で表される。
ボルンの規則
時間発展はシュレーディンガー方程式で表される。
射影仮説(波束の収縮(英語版))
の5つが閉じた有限自由度系の純粋状態の量子論の原理としている。