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## スピン一重項と三重項状態 | |
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もっとも簡単な系である2つのスピン角運動量(S=1/2)の合成を具体的に見ておきましょう。
[1] これから合成しようとする2つの電子に番号を付け,n 番目の電子のスピンに対して,その固有ケット(基底)を,|±>n ,スピン演算子Snz と書くことにすれば,
{ |+>1,|−>1 } ・・・ スピン空間 1 の基底
{ |+>2,|−>2 } ・・・ スピン空間 2 の基底
はそれぞれ,2次元ベクトル空間を張っており,各スピン演算子との間で,
S1z|±>1 = ±(h/2)|±>1 ; S12|±>1 = (3h2/4)|±>1
S2z|±>2 = ±(h/2)|±>2 ; S22|±>2 = (3h2/4)|±>2
という一つのスピンに対して成り立つ固有方程式[#]が独立に成立します。
ここで,S1zは|±>1 だけに作用する演算子で,|±>2 に対しては何も作用させない,つまり,|±>2 に対しては恒等演算子のように働きます。もちろん,S2zについては事情が逆となっています。
[2] さて,この2つのベクトル(=1階テンソル)空間から,4 (= 2×2 ) 次元 のテンソル積空間 [#] を作ることができますが,その4つの基底を,
|+>1 |+>2 ⇒ |+>|+> と略記する |+>1 |−>2 ⇒ |+>|−> |−>1 |+>2 ⇒ |−>|+> |−>1 |−>2 ⇒ |−>|−>
のようにとることができます[#]。このテンソル積空間を用いた,2つのスピンをひとまとめにした表記をこの2つのスピンの合成スピンと呼ぶことにします。
ケットのテンソル積表現に対応して,演算子もテンソル積であらわしておきましょう。そのためには,演算子T1,T2に対して,
T1≡ T1 I2, T2 ≡I1 T2
を定義します。ここで,I1,I2 は,スピン空間1,及び2の恒等演算子(=2次の単位行列)です。また,これらの和 + を合成スピン演算子 として,
T ≡ T1+T2 = T1 I2 + I1 T2
のように定義します。 特にスピン演算子の z 成分について具体的に書けば,
↓
S1z ≡ S1z I2, S2z ≡I1 S2z
Sz ≡ S1z+S2z = S1z I2 + I1 S2z
となります。また,一つのスピンに対して行なったように[#],合成スピンの S2 ,S+ ,S- を次のように,
( I ) S2 = SxSx+SySy+SzSz
(II ) S+ = Sx+i Sy
(III) S- = Sx−i Sy
定義することにしましょう。
[3] さて,このような演算子とケットとの間の演算規則ですが,例えば,演算子,S2z は,|±>2 にだけ作用して,|±>1 には作用しないことに注意して,
S2z|+>|+>= { I1 S2}{|+>1 |+>2}
= { I1|+>1} {S2|+>2}
=(
= |+>1 {(
h/2)|+>2}h/2){|+>1|+>2}
=(h/2)|+>|+>
のように行なうことができます。他の基底,演算子についても同様に計算すれば,次のような関係が確かめられます。
|m1m2> 表示
|m1m2> を|+>|+>,|+>|−>,|−>|+>,|−>|−> の4つのうちのどれかとすると,S12|m1m2> = (3
h2/4)|m1m2> ; S1z|m1m2> = m1(h/2)|m1m2>S22|m1m2> = (3
h2/4)|m1m2> ; S2z|m1m2> = m2(h/2)|m1m2>
ここで,m1,および,m2 は+か−の符号を意味します。このような基底 ,{|+>|+>,|+>|−>,|−>|+>,|−>|−> } を用いた表現を { m1m2 }表示 と言います。これらは演算子, S12,S1z,S22,S2z の同次固有ケットになっています。
[4] 先に進む前に,合成スピンに対して,次のような公式を導いておきましょう [#]。
公式 (1) [S2,Sx ] =[S2,Sy ] = [S2,Sz ] = 0
(2) [S2,S±] = 0
(3) [S+,S−] = 2hSz
(4) [Sz ,S±] = ±hS±
(5) S+S− = S2−Sz2+hSz
(6) S−S+ = S2−Sz2−hSz
(7) S2 = (S+S−+S−S+)/2 +Sz2
(8) S2 = S12+S22 +S1+S2- +S1-S2+ +2S1zS2z
証明はどれも定義に従って計算するだけなので,(1)から(7)までは省略して,(8)だけ示しておきましょう。
S2 = (S1+S2 )2 = S12+S22+2S1S2
= S12+S22 + 2(S1xS2x+S1yS2y+S1zS2z )
= S12+S22 +S1+S2- +S1-S2+ +2S1zS2z
と行なえます。最後の=は次の関係を用いてます。
S1+S2- = (S1x+i S1y)(S2x−i S2y) = S1xS2x+S1yS2y+i S1yS2x−i S1xS2y
S1-S2+ = (S1x−i S1y)(S2x+i S2y) = S1xS2x+S1yS2y−i S1yS2x+i S1xS2y
片辺々足し合わせて,
S1+S2-+S1-S2+ = 2(S1xS2x+S1yS2y) なる関係を用いました。
[5] 上のような関係が成り立つことから,合成スピンにも,S2とSzの同次固有ケットが存在するのではないかと予想できます。そこで,とりあえず,|+>|+>,|+>|−>,|−>|+>,|−>|−>の順に並べた基底ベクトルを用いて,S2 の行列表現 [#] を計算してみると,
S2 = S12 + S22 + S1+S2- + S1-S2+ + 2S1zS2z
S2 = | ![]() |
<+|<+|S12|+>|+> | <+|<+|S12|+>|−> | <+|<+|S12|−>|+> | <+|<+|S12|−>|−> | ![]() |
+・・+・・+・・・ |
<+|<−|S12|+>|+> | <+|<−|S12|+>|−> | <+|<−|S12|−>|+> | <+|<−|S12|−>|−> | ||||
<−|<+|S12|+>|+> | <−|<+|S12|+>|−> | <−|<+|S12|−>|+> | <−|<+|S12|−>|−> | ||||
<−|<−|S12|+>|+> | <−|<−|S12|+>|−> | <−|<−|S12|−>|+> | <−|<−|S12|−>|−> |
= |
![]() |
3/4 | 0 | 0 | 0 | ![]() |
+ |
![]() |
3/4 | 0 | 0 | 0 | ![]() |
+ |
![]() |
0 | 0 | 0 | 0 | ![]() |
+ |
![]() |
0 | 0 | 0 | 0 | ![]() |
+2 |
![]() |
1/4 | 0 | 0 | 0 | ![]() |
0 | 3/4 | 0 | 0 | 0 | 3/4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | -1/4 | 0 | 0 | |||||||||||||||
0 | 0 | 3/4 | 0 | 0 | 0 | 3/4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | -1/4 | 0 | |||||||||||||||
0 | 0 | 0 | 3/4 | 0 | 0 | 0 | 3/4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1/4 |
= |
![]() |
2 | 0 | 0 | 0 | ![]() |
← ( 基底 ,{|+>|+>,|+>|−>,|−>|+>,|−>|−> }のとき ) |
0 | 1 | 1 | 0 | ||||
0 | 1 | 1 | 0 | ||||
0 | 0 | 0 | 2 |
となり,対角行列ではありません。つまり,2番目,3番目の|+>|−>と|−>|+> は S2 の固有ケットではないからです。そこで,この部分を対角化するために次のユニタリ行列 U を考えると,
U = 1 0 0 0 0
1
2
1
2 0 0
1
2
−1
2 0 0 0 0 1
U*S2U= h22 0 0 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2
のようにユニタリ変換後,S2 は対角化されます。この変換後の新しい(固有)ケットは,
|1,1> = U|+>|+> = U | ![]() |
1 | ![]() |
= |+>|+> |
0 | ||||
0 | ||||
0 |
|1,0> = U|+>|−> = U | ![]() |
0 | ![]() |
= | ![]() |
0 | ![]() |
|
|||||||||||||||||||
1 |
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||||||||||||||||||||||||||
0 |
|
||||||||||||||||||||||||||
0 | 0 |
|0,0> ≡ U|−>|+> = U | ![]() |
0 | ![]() |
= | ![]() |
0 | ![]() |
|
|||||||||||||||||||
0 |
|
||||||||||||||||||||||||||
1 |
|
||||||||||||||||||||||||||
0 | 0 |
|1,-1> ≡ U|−>|−> = U | ![]() |
0 | ![]() |
= |−>|−> |
0 | ||||
0 | ||||
1 |
となります。また,固有値が 0 であるか 2h2 であるかによってこれらのケットはふつう次のような2つに分類します。
(I) S2 の固有値が 0 である固有ケットで一重項と呼びます。
|0,0>
(II) S2 の固有値が 2h2 である固有ケットで,次の3つを三重項と呼びます。
|1,1>,|1,0>,|1,-1>
この基底 { |1,1>,|1,0>,|1,-1>,|0,0> } を用いた合成スピンの表示方法を|jm> 表示 とか一重項-三重項表示といいます。
一重項はスピンがお互いに反平行,三重項はスピンが平行である場合の固有ケットとなっています。
また,S12 については,公式 (8) S2 = S12+S22 +S1+S2- +S1-S2+ +2S1zS2z の右辺に現れる,S1±,S1z,および,すべてのスピン2 に関する演算子とは可換なので,
[S2,S12 ] = 0
であることがわかります。同様に,
[S2,S22] = 0
これらと,公式(1)を合わせて,S2,S12,S22,Sz の同次固有ケットになっています。
|jm>表示 で成り立つ固有方程式をまとめておくと,
|jm>表示 S12|jm> = (3
h2/4)|jm> ; S22|jm> = (3h2/4)|jm>Sz|jm> = m
ただし, j=0,1 ; m=-1,0,1 ; |m|≦jh|jm> ; S2|jm> =j(j +1)h2|jm>
となります。
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