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14-1 ベクトルポテンシャル とスカラーポテンシャル |
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[1] ベクトルポテンシャルの存在
ベクトル解析によると任意のベクトルA に対して,div rotA=0 [#] なので,磁束密度B を適当なベクトルA を用いて,B=rotA と表せば,マクスウェルの方程式のひとつ,divB =0 はこのA を用いる限りにおいては自動的に満たされることがわかります。このA をベクトルポテンシャルといいいます。
定義 [ベクトルポテンシャル] B = rot A を満足するベクトル A (t,r ) ・・・ (1) |
ただし,A は一意的ではなく,任意のスカラー関数χを用いた,
A’ = A + grad χ
もベクトルポテンシャルとなります。なぜなら,
rot A’= rot (A +grad χ) |
と同じB を与えるからです。ベクトルポテンシャルには,grad χ だけの自由度があるということができます。
[2] スカラーポテンシャル の存在
ベクトルポテンシャル ( B = rot A ) を用いると,ファラデーの法則 [#] は,
rot E + ∂B = 0 ⇔ rot
E + ∂A ∂t = 0 ∂t
となります。すると,ベクトル解析の定理 [#] より,(←ストークスの定理の系)
E + ∂A = grad (-φ) なるスカラー関数 -φ が存在する。 ∂t
ことがわかります。そこでこのφをスカラーポテンシャルと呼び,次のように定義します。
定義 [スカラーポテンシャル]
|
さらに,ベクトルポテンシャルの自由度を利用して,変換 A’ = A + gradχ を考えると,
E =−gradφ− ∂A ∂t
= −grad φ− ∂ (A’−grad χ) ∂t
= −grad φ− ∂χ − ∂A’ ∂t ∂t
= −grad φ’ − ∂A’ ∂t
と計算を進めることができます。ここで, grad ( )の中身をφ’ とおきました。
[2-2] これから次のようにまとめられます。
[ゲージ変換] 任意のスカラー関数をχ(t,r)とするとき, A’ = A + grad χ を満足する A’,φ’は,A,φと同一のB,E を与えることができる。 |
(1),(2)によって,電場,磁場を記述するに十分なA,φ の組を電磁ポテンシャルといい,また,B,E を変えないようにA,φ の組を選び直すことことをゲージ変換(可換ゲージ変換)といいます。また,あるゲージ変換によって ”形” を変化させない物理量,方程式などをその変換に対してゲージ不変であるというように言います。
[3] マクスウェルの方程式(4つ組)は,ベクトルポテンシャルとスカラーポテンシャルを用いて,次のように書き直おすことができます。
(1) divD = ρ | ⇔ |
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(3) divB = 0 | (3) B = rot A | |||||||||||||||||||
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ここで,A,φがその定義から自動的に(2),(3)を満たしていることに注意すると,電磁ポテンシャルを用いたマクスウェルの方程式は,実質的に(1)と(4)と2式で与えられると考えることができます。
(導出のヒント)
E =−gradφ− | ∂A | にεかけて(1)のD に代入 ⇒ (1) |
∂t |
(4)→(4)では,公式rot rot=grad div−Δ [#] を用いよ。
[1] ビオ-サバールの法則 (積分形)[#] ,
B = μ0 j (s)×(r −s) d3s 4π |r −s|3
をベクトルポテンシャルを用いて書き直します。
∇がr に作用することに注意し,定ベクトルa (=j (s)) についてのベクトル解析の公式 (9) a× | r | =∇× | a | を用いると[#], | |
r3 | r |
B= μ0 ∇×j (s) d3s = ∇× μ0 j (s) d3s 4π |r −s| 4π |r −s|
と変形されます。これをベクトルポテンシャルの定義 B=∇×A と比較すれば,
A ≡ μ0 j (s) d3s 4π |r −s|
とすればよいことがわかります。これは,「ベクトルポテンシャルを用いたビオサバールの法則」[#] ということができます。このようにA を定めておけば,A の回転を取ることで,ただちにB を得ることができます。
[2] 以上の結果を電磁場と電磁ポテンシャルとの関係と比較してみると次のようになります。
電場 | 磁場 | ||||||||||||||||||||
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E =−gradφ | B =rotA | ||||||||||||||||||||
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この表を見ると,ベクトルポテンシャルで考える場合はE-B対応として定義されていることがわかります。
E ⇔ B
φ ⇔ A
・ ⇔ ×
ρ ⇔ μ0 j ε0
ただし,これはベクトルポテンシャルをB=rotA と定義したからで,H=rotA によってA を定義することを排除する本質的な理由があるわけではありません。(つまり,習慣の問題)
電磁場中の量子力学に必要となる電磁場のラグランジアンとハミルトニアンを導出します。
∂L − d ∂L =0 ∂r dt ∂r’
↓↑
∂L − d ∂L =0 (運動方程式) y,z に対しても同様 ∂x dt ∂x'
ラグランジアン L は,上記方程式が,電荷 q,質量 m の粒子の電磁場中の運動方程式 mr”=qE+qr’×B を与えるように,次のとおり定めます。
L = m ( r’)2−q φ(r,t)+q (r’・A (r,t)) ・・・ [*] 2
= m ( x’+y’+z’)2−q φ(t,x,y,z)+q (x’Ax(t,x,y,z)+y’Ay(t,x,y,z)+z’Az(t,x,y,z)) 2
ただし,電磁ポテンシャルは,
E =−∇φ− ∂A , B =∇×A ∂t
を満たし,また,
x’= dx ,y’= dy ,z’= dz dt dt dt
スカラー関数 f に対して,
∂f ≡ ∂f , ∂f , ∂f =∇f ∂r ∂x ∂y ∂z
という意味で記号∂/∂r を使っています。
[2] 実際に[*]が適切なラグラジアンであることを確認しましょう。
まず,[*] を r’を定数(ベクトル) とみなして,r で微分しますが,φ,および,( r’・A (r,t) ) はスカラーなので,
∂L =−q∇φ+q∇ (r’・A ) ・・・ (1) ∂r
と書けます。これは簡単です。
[3] 次に,r を定数(ベクトル) とみなして,r’で微分するとき,x成分ならば,
∂ ( r’)2 x成分 =
∂ ( x’+y’+z’)2=2x’ ∂x’ ∂r’
=2(r’)x成分
∂ ( r’・A) x成分 =
∂ ( x’Ax+y’Ay+z’Az=Ax ∂x’ ∂r’
=(A)x成分
のように計算できることに留意すると,[*] の r’での微分は,
∂L =mr’+qA ∂r’
となります。 さらに,これを t で微分すると,
d ∂L =mr”+q d A (t,r(t)) dt ∂r’ dt
第2項ベクトル場A は,r が t の関数であることに注意して,
dA x成分 = ∂Ax + ∂Ax dx + ∂Ax dy + ∂Ax dz dt ∂t ∂x dt ∂y dt ∂z dt
= ∂A +(r’・∇)A x成分 ∂t
と書けます。したがって,
d ∂L =mr”+q ∂A +(r’・∇)A ・・・ (2) dt ∂r’ ∂t
[4] そこで,(1)−(2) を計算すると,オイラ−ラグランジュの方程式は,
mr”=−q ∂A +∇φ +q{∇ (r’・A )−(r’・∇)A} ∂t
↓ 公式 C ×(∇×A )=∇(C ・A )−(C・∇)A ; C は定ベクトル [#]
=−q ∂A +∇φ +q r’×(∇×A ) ∂t
=qE +q r’×B
となり,Lorentz力による運動方程式と同等であることが確認できました。
[5] 正準運動量は定義から,
px ≡ ∂L =mx’+qAx , py ≡ ∂L =my’+qAy , pz ≡ ∂L =mz’+qAz ∂x’ ∂y’ ∂z’
と計算できます。このとき,ハミルトニアンは,定義より,
H ≡pxx’+pyy’+pzz’−L
= 1 {(mx’)2+(my’)2+(mz’)2}+qφ 2m
= 1 {(px−qAx)2+(py−qAy)2+(pz−qAz)2}+qφ 2m
となります。
最後,これを量子力学演算子に置き換えるには,
px =−i h∂ ,py =−i h∂ ,pz =−i h∂ ∂x ∂y ∂z
とすれば良いだけです。以上,正準量子化の手順です。続きは量子力学で。
ここまで,電磁ポテンシャルは必ず存在するものとして議論してきましたが,このページの最後にそれを証明しておきます。
ベクトルポテンシャルの存在条件 divB =0 ならば,B =∇×A なるA が存在する。 |
証明
ベクトルポテンシャルA を具体的に構成してみせるために,
∂F1 =B1, ∂F2 =B2 ∂z ∂z
を満たす。F1,F2を成分とするベクトル,
F = ( F2,−F1,0 )
を考える。(この成分の順番や符号は,次に回転をとられることを考慮して。)
この回転を計算すると,
rotF = ∂F1 , ∂F2 ,− ∂F1 − ∂F2 ∂z ∂z ∂x ∂y
= B1,B2,− ∂F1 − ∂F2 ∂x ∂y
= B1,B2,B3 − 0,0, ∂F1 + ∂F2 +B3 ∂x ∂y
= B− 0,0, ∂F1 + ∂F2 +B3 ∂x ∂y
さらに,この発散をとると,
0 =div rotF
= divB−div 0,0, ∂F1 + ∂F2 +B3 ∂x ∂y
ここで,仮定より,divB=0 なので,
∂ ∂F1 + ∂F2 +B3 = 0 ・・・・・[*] ∂z ∂x ∂y
が成立することがわかる。さらに,F の修正項として,関数G(x,y,z)を成分とするベクトル,
G =(0,G,0)
を考え,この回転をとると,
rotG= − ∂G ,0, ∂G ∂z ∂x
これを先ほどのF の回転と足し合わせれば,
rot ( F +G )= B1− ∂G ,B2 , ∂G − ∂F1 − ∂F2 ・・・・・[**] ∂z ∂x ∂x ∂y
これがB に等しくなるためには,まず,
∂G = ∂F1 + ∂F2 +B3 ∂x ∂x ∂y
のように定めれば,[**]の第3成分はB3とすることができます。そのとき,[*]に注意すると,
∂ ∂F1 + ∂F2 +B3 = ∂ ∂G = ∂ ∂G =0 ∂z ∂x ∂y ∂z ∂x ∂x ∂z
∂G =0 ∂z
とGを選ぶことが可能です。(実は最初からGをx,yのみの関数G(x,y,z0)とおいてもよかった!)そのとき,
rot ( F +G )=(B1,B2,B3)=B
したがって,A≡F+G=(F2,G−F1,0) はB のベクトルポテンシャルとなっている。(ただし,これが唯一というわけではない!)
具体的には,
F1= z B1(x,y,z)dz z0
F2= z B2(x,y,z)dz z0
G= x B3(x,y,z0)dx x0
とおけばよいことは容易に確かめられます。
磁場を用いたビオサバールの法則,
H = | 1 | ![]() |
j (s)×(r−s) | d3s |
4π | |r−s|3 |