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14-2 ゲージ変換とローレンツ共変性 |
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[1] 電磁ポテンシャルを用いたマクスウェルの方程式は,
(1) Δφ+ ∂divA =− ρ ∂t ε
(4) ΔA −εμ ∂2A −grad εμ ∂φ + divA = −μj ∂t2 ∂t
で与えられます[#]。 ただし電磁ポテンシャルA,φは,
(3) B = rot A
(2) E =−gradφ− ∂A ∂t
を満足するように選ばなければなりません。また,任意のスカラー関数χだけの自由度を持っていて,
A’ = A + grad χ
φ’ = φ − ∂χ ∂t
となるA’,φ’を用いても数学的には同じ電磁気現象を記述することが可能 (ゲージ不変性) ということでした[#]。
[2] この性質を利用して,適当な関数χを選び直すことで問題を解くために都合のよい電磁ポテンシャルを設定すれば,計算を楽に進めることができるようになります。よく用いられる基本的な「ゲージ」は次の2つです。
[ゲージ]
|
( I ) クーロン・ゲージ
クーロンゲージ とは, div A = 0 となるようにχを選ぶと,マクスウェルの方程式の(1),(4)は,
(1)” Δφ =− ρ ε
(4)” ΔA−εμ ∂2A −εμ ∂ gradφ =− μj ∂t2 ∂t
となります。(1)” 式がクーロンの法則に等価なポアソンの方程式[#]そのもです。つまり,このゲージをもちいると,一般的な電磁気現象を取り扱う際に,静電気学の方程式を基に計算を進めることができるのです。 電磁場の量子化参照 ⇒[#]
( II ) ローレンツ・ゲージ
もう一つの電磁ポテンシャルであるローレンツゲージ ,
div A +εμ ∂φ = div A + ∂φ = ∂Ax + ∂Ay + ∂Az + ∂φ =0 ∂t c2∂t ∂x ∂y ∂z c2∂t
を用いた場合の重要な特徴は,「ローレンツ変換に対して,マクスウェルの方程式が式の形を変えない(=ローレンツ共変)」ことです。このゲージの下でのマクスウェルの方程式は,
(1)’ Δφ− ∂2φ =− ρ c2∂t2 ε
(4)’ ΔA− ∂2A =− μ j c2∂t2
という対称性のよい2つの線形微分方程式になります。 さらに,
ダランベルシアン(演算子): □ ≡ Δ− ∂2 c2∂t2
を定義して用いると,
□ φ =− ρ , および, □ A =−μj ε
と極めて簡素な式となります。 ローレンツゲージは時間変化のある動的な現象(相対論が主役)の取り扱いに適しています。
[3] ローレンツゲージの元では,マクスウェルの方程式は形を変えないと述べましたが,これを示すためには,先ず,ローレンツ変換の下で,ダランベルシアン が形を変えないことを示しましょう。それは以下のように計算して確かめられます。
ローレンツ変換[#],
ct’=γ (ct − βz)
x’ = x
y’ = y
z’ =γ (z − βct)ただし,γ = 1 > 1, β = v
1−β2 c
にしたがって,時間,空間変数の微分演算子の変換は[#],
∂ = ∂t’ ∂ + ∂z’ ∂ =γ ∂ −γβc ∂ ∂t ∂t ∂t’ ∂t ∂z’ ∂t’ ∂z’
∂2 =γ2 ∂2 +(γβc)2 ∂2 −2γ2βc ∂2 ・・・・(3) ∂t2 ∂t’2 ∂z’2 ∂t’∂z’
および,
∂ = ∂t’ ∂ + ∂z’ ∂ =−γβ ∂ +γ ∂ ∂z ∂z ∂t’ ∂z ∂z’ c∂t’ ∂z’
∂2 =(γβ)2 ∂2 +γ2 ∂2 −2γ2β ∂2 ・・・・(4) ∂z2 c2∂t’2 ∂z’2 c∂t’∂z’
と変換されます。よって,(3),(4)より,
− | ∂2 | + | ∂2 | |
c2∂t2 | ∂z2 |
=(−γ2+(γβ)2) | ∂2 | +(−(γβ)2+γ2) | ∂2 | +(2γ2β−2γ2β) | ∂2 | |||
c2∂t’2 | ∂z’2 | c∂t’∂z’ |
=− | ∂2 | + | ∂2 | |
c2∂t’2 | ∂z’2 |
一方,
∂2 = ∂2 および, ∂2 = ∂2 ∂x2 ∂x’2 ∂y2 ∂y’2
したがって,
□≡ | ∂2 | + | ∂2 | + | ∂2 | − | ∂2 | = | ∂2 | + | ∂2 | + | ∂2 | − | ∂2 | ≡□’ |
∂x2 | ∂y2 | ∂z2 | c2∂t2 | ∂x’2 | ∂y’2 | ∂z’2 | c2∂t2 |
これは2つの座標系においてダランベルシアンが「同形」であることを意味しています。
[1] 今度はローレンツゲージにおける電磁ポテンシャルがローレンツ変換によってどう変換されるかを見ていきます。このゲージにおける電磁ポテンシャルで表したマクスウェルの方程式は,
(1) □ φ =− ρ [ スカラーポテンシャル ] ε
(2) □ A =−μj [ ベクトルポテンシャル ]
(3) div A + ∂φ = 0 [ ローレンツ・ゲージ ] c2∂t
となります。まず,電荷も電流も存在せず,右辺=0 となる次の場合について考えます。
(1)’ □ φ = 0
(2)’ □ A = 0
これらの演算子部分が,□→□’と変換されることは先程述べたとおりです。このとき,電磁ポテンシャルもφ→φ’,A→A’と変換されなければなりませんが,これまで述べてきたように観測者の立場によって,すなわち,座標系が換わると,電場,磁場は入り混じって変換されることから,電場,磁場を与える電磁ポテンシャルも座標変換(ローレンツ変換)によって入り混じって変換されるはずです。具体的にφ’,A’ の形を求めるために取りあえず,(3)の演算子部分だけをローレンツ変換してみると,
∂Ax + ∂Ay + ∂Az + ∂φ ∂x ∂y ∂z c2∂t
= ∂Ax + ∂Ay + −γβ ∂ +γ ∂ Az+ γ ∂ −γβc ∂ φ ∂x’ ∂y’ c∂t’ ∂z’ c2∂t’ c2∂z’
= ∂Ax + ∂Ay + ∂ γAz−γβ φ ∂x’ ∂y’ ∂z’ c
+ ∂ −γβcAz+γφ =0 (3)’ c2∂t’
となります。ここで,電磁ポテンシャルがローレンツ変換によって形を変えない(再びローレンツゲージを満足したまま)とするならば,すなわち,
∂A’x + ∂A’y + ∂A’z − ∂φ’ =0 ∂x’ ∂y’ ∂z’ c2∂t’
と表されるならば,電磁ポテンシャルは,
A’x=Ax
A’y=Ay
A’z=γ Az−β φ ←A’zはAzとφとの1次結合となっている! c
φ’ =γ φ −βAz ←φ’はAzとφとの1次結合となっている! c c
と変換される必要があります。また,あるポテンシャル関数φ,A が(1)’,(2)’の解であるならば,その1次結合であるφ’もA’ も(1)’,(2)’の解(線形性)となります。したがって,
□φ=0,□Az=0
⇒ □φ’=□cγ | ![]() |
φ | −βAz | ![]() |
=0, □A’z=□γ | ![]() |
Az−β | φ | ![]() |
=0 | |
c | c |
⇒ □’φ’=0, □’A’= 0
と書き直してもよいことになります。つまり,(1)’,(2)’もローレンツ変換に対して形式的な形を変えないことがわかります。最後の⇒では,ダランベルシアンがローレンツ変換に対して形を変えないことを利用しています。また,□A =0は3つの微分方程式をベクトルの形で1つにまとめて表記していますが,今の場合,z成分だけが変換によって形を変えるので,途中,□Az =0 だけ抜き出して示しています。
[2] 次に電荷,電流も存在する一般的な場合を考えます。これは「電荷についての連続の式」[#],
∂jx + ∂jy + ∂jz + ∂ρ =0 ∂x ∂y ∂z ∂t
がローレンツ変換によって形を変えないという条件から電磁ポテンシャルのときと同様な計算 (A ⇒J,φ/c ⇒cρとせよ) から,
j’x=jx
j’y=jy
j’z=γ(jz−βcρ)
cρ’=γ(cρ−βjz)
と変換されることがわかります。以上を一般化した4元ベクトル (x0,x1,x2,x3) を用いてまとめると,
[ ローレンツ共変 ] 4元ベクトル (ct,x,y,z),(φ/c,Ax,Ay,Az),(cρ,jx,jy,jz) はローレンツ変換, x’0=γ (x0 − βx3) に従う。このように4元ベクトルが変換されることをローレンツ共変性という。 (x の上添字は反変成分の意味だが,ここではタダの添字以上の役割はないので気にしなくてよい。) |
これらの結果を総合すると,電磁ポテンシャルで表したマクスウェルの方程式は互いに等速運動する座標系(=慣性系)によって形式を変えずに表すことが可能であることがわかります。
改めて,電磁ポテンシャルの4元ベクトルをA=(φ/c,Ax,Ay,Az),電流密度の4元ベクトルを J =(cρ,jx,jy,jz) とおけば,一般の場合のマクスウェルの方程式は,□A=−μJ と書くことができます。この式を
X ≡ □A+μJ =0
と書けば,4元ベクトルX はローレンツ共変性をもつので,X =0 という式はローレンツ変換後もX ’ =0 ’ を満たします。つまり,電荷,電流が存在する場合もマクスウェル方程式が形式を換えずに成立することが分かります。
電場と磁場を用いて表される電磁気現象は観測者の立場によってそれを記述する方程式が形を変えてしまいます。ある観測者にとっては電場と電荷の相互作用として取り扱われる現象が別の観測者にとっては磁場と電荷との相互作用も入り混じった現象として取り扱われ,理解されるようなことも起こり得ます。
ところが,このページで示したようにローレンツゲージのもとの電磁ポテンシャルを用いると,すべての慣性系の観測者にとって解くべき方程式は形が同一となるような座標変換(=ローレンツ変換)が存在します。そのような意味で,電磁ポテンシャルの方が,電場,磁場より本質的な物理量であると考えることができます。
また,電磁ポテンシャルが光速度cだけを含んでいるということも理論的にすっきりしています。電磁気学の体系化に必須の定数は光速度だけです。理論的にみると,誘電率ε,透磁率μは,
c =
1
εμ
に従って,光速度を2つの部分に分け,電荷,磁荷の関わる法則に対称性を持たせるための小細工にすぎないと見ることができるからです。
[1] 静止座標系とz方向を等速度vで進行する運動座標系で電磁場がどのように違って見えるか,
「静止系での電磁場を Ex,Ey,Ez,Bx,By,Bz ,
運動系の電磁場を E’x,E’y,E’z,B’x,B’y,B’z 」
として,座標変換の式を導出します。その際,座標の微分演算子の変換式[#],
|
逆変換は → β(=v/c) → -β |
|
電磁ポテンシャルの4元ベクトルの変換式,
φ’=γφ−γβcAz
A’x=Ax
A’y=Ay
A’z=γ Az−β φ c
および,
E =−gradφ− | ∂A | |
∂t |
= | ![]() |
− | ∂φ | − | ∂Ax | ,− | ∂φ | − | ∂Ay | ,− | ∂φ | − | ∂Az | ![]() |
∂x | ∂t | ∂y | ∂t | ∂x | ∂t |
B = rot A
= ∂Az − ∂Ay , ∂Ax − ∂Az , ∂Ay − ∂Ax ∂y ∂z ∂z ∂x ∂x ∂y
を利用します。以下,計算。
電場 x成分
E’x=− ∂φ’ − ∂A’x ∂x’ ∂t’
=− ∂ (γφ−γβcAz)− γ ∂ +γβc ∂ Ax ∂x ∂t ∂z
=−γ ∂φ +γβc ∂Az −γ ∂Ax −γβc ∂Ax ∂x ∂x ∂t ∂z =γ( Ex−vBy)
=γ − ∂φ − ∂Ax −γβc ∂Ax − ∂Az ←第1項は E =-gradφ− ∂A のx成分 ∂x ∂t ∂z ∂x ∂t
電場 y成分
E’y=− ∂φ’ − ∂A’y ∂y’ ∂t’
=− ∂ (γφ−γβcAz)− γ ∂ +γβc ∂ Ay ∂y ∂t ∂z
=γ − ∂φ − ∂Ay +γβc ∂Az − ∂Ay ∂y ∂t ∂y ∂z =γ( Ey+vBx)
電場 z成分
E’z=− ∂φ’ − ∂A’z ∂z’ ∂t’
=− γβ ∂ +γ ∂ (γφ−γβcAz)− γ ∂ +γβc ∂ γ Az−β φ c∂t ∂z ∂t ∂z c =Ez ↑ (1−β2)γ2=1
=−(1−β2)γ2 ∂φ +γ2(β2−1) ∂Az ∂z ∂t
今度は磁束密度についてです。
磁束密度 x成分
B’x= ∂A’z − ∂A’y ∂y’ ∂z’
= ∂ γ Az−β φ − γβ ∂ +γ ∂ Ay ∂y c c∂t ∂z
=γ ∂Az − γ ∂Ay −γβ ∂φ −γβ ∂Ay ∂y ∂z c∂y c∂t
=γ Bx+ v Ey c2
磁束密度 y成分
B’y= ∂A’x − ∂A’z ∂z’ ∂x’
= γβ ∂ +γ ∂ Ax− ∂ γ Az−β φ c∂t ∂z ∂x c
=γ ∂Ax −γ ∂Az +γβ ∂φ +γβ ∂Ax ∂z ∂x c∂x c∂t
=γ By− v Ex c2
磁束密度 z成分
B’z= ∂A’y − ∂A’x ∂x’ ∂y’ =Bz
= ∂Ay − ∂Ax ∂x ∂y
[2] まとめると,
静止座標系Σの電磁場と運動座標系Σ’の電磁場との関係
E’x=γ(Ex−vBy) =γ(E+v×B )x成分
E’y=γ(Ey+vBx) =γ(E+v×B )y成分
E’z=Ez =γ(E+v×B )z成分ベクトルで書くと,
B’x=γ Bx+ v Ey =γ(B−(v×E )/c2)x成分 c2 Bz’=Bz =γ(B−(v×E )/c2)z成分
B’y=γ By− v Ex =γ(B−(v×E )/c2)y成分 c2
E’=γ(E+v×B )
B’=γ(B−(v×E )/c2)
補足
特殊相対性理論での4元力の空間部分 [#] を
f=(f1,f2,f3)= dp dτ
古典力学(ニュートン力学の力)をF=(F1,F2,F3)とすると,
F=(F1,F2,F3)= dp = dp dτ =f ・ 1 dt dτ dt γ
の関係がある⇒[#]。
ここで,z方向に等速度vで運動する電荷Qを考える。
電荷といっしょに動く運動座標系では静電場E’だけが存在して,Qに働く力が f=QE’と表されならば,
E’を静止座標系の電場E,磁場Bで表すと,
γF=f=QE’=γQ(E+v×B )
すなわち,
F=Q(E+v×B )
と静止系から見た電荷Qに働くローレンツ力を表す関係式が得られます。
[3] さて,これで準備が整いましたので,ここで得た結果だけからビオ-サバールの法則を導いてみましょう。
まず,動座標系への変換は,
E’=γ{E+(v×B )}
B’=γ{B−(v×E)/c2}
その逆変換(v→-v)は,
E =γ{E’−(v×B’)} [*]
B =γ{B’+(v×E’)/c2} [**]
となります。
静止系において,+z方向へ直線運動する電荷Qが存在するとき,運動座標系では電荷Qは静止して観察され,
B ’=0
また,その電荷から位置r’における静電場はクーロンの法則にしたがい,
E ’= Qr’ 4πε0r’ 3
となります。これを静止座標系で観測すると, [**] 式から,
B =γ(v×E’)/c2
=γ Q(v×r’) 4πε0c2r’ 3
=γ μ0Q(v×r’) 4πr’ 3
となります。上式はz軸方向へ速度vで運動する運動電荷Qに対するビオ-サバールの法則となっています。v<<c であるときはγ=1 とでき,すでに紹介したビオサバールの法則の式と完全に一致します。⇒ [#]
なお,静止系における電場はB’=0 であることから, [*] より,
E =γE’
ですが,速度が十分遅いときはE =E ’です。
電荷といっしょに等速運動する座標系を運動座標系としてまとめると,
静止座標系 | 運動座標系 | ||||||
電場 | E =E’ |
|
|||||
磁場 |
|
B ’=0 |
速度が v<<c でないときはγを1とみなす近似はできませんが,その場合は電荷に掛かる力として4元力 f=γF を考える必要があります。(F
はニュートン力学における力。) そうすれば,ローレンツ力にγが現れることはありません。ローレンツ力は近似的な表現ではなく厳密に成り立つ式です。